静かな田舎町に、かつて賑わっていた小さな神社があった。
しかし、年月と共に人々の記憶から忘れ去られ、神社は他の場所に身を寄せた村人たちにとって、ただの廃墟としてしか存在しなくなった。
その神社には「超能力を授ける」と言われた神が祀られており、若者たちは成功や夢を求めて訪れたものの、結果的には争いや悲劇を生む元凶となることが多かった。
ある晩、一人の青年がその神社を訪れた。
彼の名は秋人。
彼は商業デザインの分野で成功を狙っていたが、上京してから迷い続けた。
多くの夢を抱いて入った大学での生活は、予想以上に厳しく、彼は過去の自分を忘れかけていた。
そんな時、彼は神社の噂を耳にし、無鉄砲にその神社を訪れた。
秋人は神社の前に立っていると、どこからともなく冷たい風が吹き、彼の背筋に不気味な感覚が走った。
「神よ、私に力を…」と呟いた彼は、手を合わせ、目を閉じた。
すると、心の奥底にしまい込んでいた念が浮かび上がり、彼の周囲がざわめき始めた。
夢の中で、秋人は自分の過去に出会った。
亡き祖母の笑顔、幼少時の無邪気な日々が蘇ってくる。
その瞬間、彼はどれだけ周囲を失い、自分自身を失っていたかを痛感した。
彼の胸の中には、祖母が残した言葉が響く。
「自分を忘れるな、命の絆を大切にしなさい。」そして、秋人はその思いを胸に抱いて神社の門をくぐった。
だが、その一歩が彼を別の次元に引き込むことになった。
神社の中が彼の視覚を刺激し、広がり続ける奇妙な風景が現れた。
目の前には、彼の失ったものが実体化して浮かび上がり、彼はそれに惹き寄せられるように前進してしまった。
もはや彼は自分を見失った。
彼が何かを手に入れようとする度に、神社は彼の念をコントロールし、彼の記憶がそのまま現実となった。
彼はやがて、失った友人や家族と再会し、一時の安息を得た。
しかし、そこには本当の幸せがないことに気付くのは時間の問題だった。
夢の中での彼の再会は、代償を伴うものだった。
欲望に支配され、欲しいものを手に入れるたびに、何かが彼から失われていく感覚があった。
そして、何度目かの失敗の後、彼は明確に悟った。
彼が求めるものは、この神社が見せる幻想に過ぎず、本当の自分を失うことにつながっていた。
ついに彼は覚醒し、神社の奥深くへ進んだ。
そこで彼は、神の正体を見た。
それは、過去の自分の影であり、彼が追い求める念そのものであった。
神は彼に向かって言った。
「失ったものを求め続ける限り、お前は永遠に戻れない。」
秋人はその言葉に響いて、求めることをやめた。
自分を顧み、過去との縁を断ち切るために神社を後にしようとしたが、思い出の重さに抗うことができなかった。
彼の心にはなおも強い念が渦巻いており、彼に引き止めようとするものが感じられた。
それでも、秋人は意を決して神社を離れた。
背後では、かつての自分たちが手を伸ばし、彼に呼びかけていたが、それに耳を傾けることはなかった。
彼は自らの足で未来へと進むことを選んだのだ。
数日後、彼は神社の噂を水面下で流していた村人たちと話す機会を持った。
彼があの晩の出来事を語ると、神社の力を背景にした虚構と現実の区別がつかない者たちが現れ、混乱を招いていた。
秋人は強い念の力が人々を操っていることを知り、今度は彼自身がその暴走を止めようと決意した。
彼は神社の伝説の真実を元に、生まれ変わった自分を取り戻すための闘いを始めるのであった。
そして、その念が恐れとなり、超現実の中で葛藤することとなる。
彼の過去と未来の狭間で、秋人は再び自分を還すための努力を続けていく。