学は、ある冬の夜、友人たちとの約束が終わった帰り道に立ち寄った小さな神社で、独特の静けさを感じていた。
その神社は古びた鳥居が立ち、周囲には白い雪が一面に積もっていた。
不思議と彼の心は落ち着き、澄んだ空気に包まれた。
神社の境内で彼は、一人の青年と出会った。
その青年は、見たこともないほど美しい容姿をしていたが、その瞳にはどこか哀しみが漂っていた。
学は彼に話しかけ、「ここ、結構怖いところだよね」と軽い冗談を言った。
青年は微笑み、言葉少なに頷いた。
「もし、あなたが何かを失ったのなら、この神社に願い事をするのが良いよ」と青年は言った。
学は、自分の心に秘めていた、かつての恋人にまつわる悲しい記憶を思い出した。
彼は、恋人を失ってからというもの空虚な日々を送っていた。
それを教えてくれたのは、偶然にも彼を訪れたこの青年だった。
その青年の言葉、そして神社の不気味な雰囲気に惹かれて、学は思わず願い事をしようと思った。
「健が戻ってきますように」と。
すると、あたりの空気が急に変わり、穏やかだった風が冷徹に学を包み込んだ。
青年の表情もどことなく曇り、学は何か違和感を抱いたが、願いを叶えたくて仕方なかった。
その夜、学は青年のことを考えながら、健との思い出に浸っていた。
次の日、まるで夢の中の出来事のように、彼の元に健が現れた。
彼はまるで以前のまま、優しく微笑んでいた。
しかし、この再会が運命にどのように影響するのか、学は想像もつかなかった。
しかし、日が経つにつれて彼女は健の様子に不気味さを感じ始める。
彼の目は空虚で、時折まるで別の存在が彼の中に宿っているかのように見えた。
学は、健が何かに取り憑かれているのではないかと不安に駆られた。
彼女は再び神社を訪れ、あの青年を探すことにした。
神社に着くと、風が強く吹き抜け、まるで何かが彼女を拒んでいるかのようだった。
学は、青年の姿を求め境内を歩き回った。
そこで出会ったのは、先程の青年ではなく、彼にそっくりな異様な姿の現象だった。
彼はなんと、自分の失った魂を求め、他者の愛を奪う存在になっていた。
「あなたは、願いをかなえた代償を知っているの?」青年がそう問いかけた。
学は恐れを抱えながらも、自分が過ちを犯してしまったことを悟った。
健は、彼女の愛を取り戻すために戻ってきたわけではなく、実体を持たないまま彼女の心を蝕む存在になっていたのだ。
確かに学は健を失った。
そして、その愛は失われたことへの執着によって呪いのように彼女を束縛していた。
学は次第に何もかも恐ろしい悪夢のような現実に変わっていくのを感じた。
もう愛することができない運命に引きずられ、彼女は逃げられないことを思い知った。
再び神社に戻った学は、青年との対話を試み、彼女の心の欲望が引き起こした現象を受け入れることを決意した。
「私は愛を失ったことを受け入れる」と、彼女は言った。
すると周囲の空気が次第に穏やかになり、どこかほっとした感触が広がった。
しかしそれでも、彼女は健の姿を見ることができず、彼の存在はいつまでも心の奥深くで響いていた。
最終的に、学は愛の甘美さと同時にその影を知り、静寂に包まれた。
失った愛は消えないままで、彼女の心には新たな記憶として深く刻まれていった。