「呪われた鏡の囁き」

春のある日、友人の浩平とともに、彼は古い屋敷を訪れた。
それは数十年前に家族が突然失踪したとされる、いわくのある場所だ。
地元の人々はこの屋敷を「呪われた屋」と呼び、近づく者は無事ではいられないと警告する。
しかし、子供のころから心霊現象に興味を持っていた浩平は、何も恐れずその場所に足を運んだ。

浩平は屋敷の門を押し開け、重い扉を開けた。
中に入ると、薄暗い廊下が目の前に広がっていた。
埃をかぶった家具や、目に見えない時間が止まったかのような空気感。
彼はリという友人に、「進んでみよう」と呼びかけた。
リは興味津々の目を輝かせていた。

彼らは階段を上り、二階の部屋に辿り着く。
その部屋は、数年前には使われていたらしいが、今はただの廃墟と化していた。
だが、壁には奇妙な模様が描かれており、何か特別な印を感じさせた。
「これ、何だと思う?」と問いかけると、リは「呪いの印かもしれないね」と冗談めかして返した。

浩平は部屋の中央に置かれた大きな鏡に近づき、自分の姿を映してみる。
すると、その瞬間、背後に何かの気配を感じた。
ふと振り返ると、そこには暗い影が立っていた。
驚くあまり息を呑む浩平。
リもその気配に気づき、苦笑いしながら、「まさか、本当に霊がいるとはね」と言った。

しかし、浩平は冗談などでは片付けられないほどの恐怖を感じていた。
「出ていこう、ここはやめよう」と言いかけたその時、リの目が変わった。
「浩平、見て!鏡の中に何かがいる!」

鏡の中では、彼らの後ろに立つ影が、徐々に形を成していた。
それは、彼らが今まで見たことのない顔立ち、そしてその表情は決して人間とは思えないものだった。
浩平は思わず目を閉じ、恐怖を感じながら、それでも恐る恐る鏡に目を向ける。

その瞬間、リが叫んだ。
「浩平、入るな!」

しかし、浩平は意識を失い、思わずその鏡に手を伸ばそうとした。
その時、全ては急激に変わった。
リの声が耳元から遠のき、彼の心に響くような低い声が耳に入った。
「私を見つけてくれ。出られないの、ここから。」彼はその言葉を聞いた瞬間、理解した。
この鏡の中に「リ」が消えてしまったのだと。

慌てて後ろを振り返ると、屋敷の外から光が差し込んでいた。
リはもうそこにはいない。
ただ、浩平だけがその屋敷に残されていた。
必死で逃げ出そうとするも、戸口が閉じられ、出られない。
暗い影が再び彼の目の前に現れ、「出ていくことはできない。あなたもここに留まる運命なのだから」と低く囁いた。

浩平は恐怖心に駆られ、走り回るが、屋敷の構造はまるで迷宮のように変わっていた。
視界の隅に映る影や、かつての友人の声が遠くから響く。
彼は出口を探し続け、心の中でリを呼び続けた。
その時、突然周囲が静まり返り、その影が彼に近づいてきた。

「彼は去った。彼を見つけることはできない。それぞれの呪いを持って、ここで待ち続ける運命だ」とその影が囁く。

浩平は絶望に包まれ、心の中で理解した。
呪われた屋敷には無限の人々が束縛されていて、彼もまた、その一人になってしまったのだ。
彼はリを救いたい一心で叫び続けるが、その声は誰にも届かない。
屋敷は再び静寂に包まれ、浩平は呪いのまま、知らぬ間にその場所に留まることになった。

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