「影の行く先」

ある静かな夜、田舎のとある路に、敏(みつる)という青年が歩いていた。
彼は若いころからの友人たちと遊んだ帰り道、家に向かっていた。
辺りは暗く、時折微かな風が吹くだけだ。
道はひっそりとしていて、月明かりがその舗装の端に影を落としていた。
その影の中に、何か異様な気配を感じるのは敏だけのようだった。

彼はまるで誰かに見られているような不安感に包まれ、足早にその場を離れようとした。
しかし、視線を感じるその方向を振り返ると、茂みの中から黒い影が見え隠れしているのを発見した。
敏は息を呑み、思わず後退した。
影は一瞬で消え、何もなかったかのように静まり返った。
しかし、彼の心の中には深い不安が残った。

その影のことを気にするのをやめようとして、敏は再び歩き出す。
しかし、彼の背後には重い空気が漂い始め、歩くたびに何かが彼を追いかけてくるかのようだった。
心の中に蔽(おお)いかけた恐怖感を振り払うようにして早足で進む。
だが、振り返ると、影は再び彼を追ってきている。
彼の体は一瞬硬直し、冷たい汗が背筋を流れた。

そのとき、敏はふと思い出した。
昔、祖父から語られた話だ。
路に潜む幽霊は、道を通る者の心に潜り込み、恐怖を植え付ける存在だというものだった。
それは人を執(しつ)着させ、行く手を阻むことを楽しむ存在だと。
彼はその言葉を思い返し、急いでその場を離れることにした。

しかし、足が動かず、何かが足に絡みつく感覚がした。
敏は恐怖に飲み込まれそうになりながらも、必死に心を奮い立たせ、前に進もうとした。
だが、影は消えず、周りはいつしか不気味な静寂に包まれていた。
彼は立ち止まり、自分の心が何に怯えているのかを探ろうとした。

ふと、彼は周囲に自分以外の存在を感じた。
周りの茂みや木々の間から、無数の目が彼を見つめているかのようだった。
敏の心はさらに重くなり、もはや逃げることはできないという絶望が押し寄せた。
そして、いつの間にか、彼の心の奥に封印していた過去の記憶が蘇り始めた。

彼がかつて、友人たちとの約束を守らなかったこと、そのために友人が心の中で悩みながら消えてしまったこと。
そのことが敏の心に大きな影を落としていた。
それが彼の中に執着し、いつしか彼自身を蔽(おお)い隠す存在となってしまっていたのだ。

敏はそのことに気づくと、深い感情に飲み込まれ、孤独感が心を締めつけた。
周りの影たちは、彼が忘れ去った友人たちの思念ではないかと思えてならなかった。
「ごめん、忘れてたわけじゃないんだ」と敏は心の中で叫んだ。
その瞬間、彼は自分の中の重荷が少し軽くなるのを感じ、消えかけた自分を再び取り戻した。

それでも、周囲の影は未だに彼の周りを漂っていた。
敏はその存在を気にせず、前に進むことを選んだ。
すれ違うことなく、彼はその道を進んだ。
その影は消えないままであるが、敏は心の中の蔭がもたらした恐怖に打ち勝つ力を教えられたのだった。

結局、敏は無事に家に帰ることができた。
しかし、その道を通る度に、彼はあの時の出来事を思い出すことだろう。
彼の心の影は、一生ついて回るのかもしれない。
それでも、彼はそれを受け入れ、未来へ歩んでいく決意を固めた。
影は彼の中で揺れていたが、叫び続けた友人たちの声は、決して彼を一人にはしなかったのだから。

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