東京のある小さな公園には、「ン」という奇妙な名前のついた彫刻が据えられていた。
その彫刻は、見る者によって様々な解釈がされる抽象的な形をしており、特に若者たちの間で人気があった。
しかし、地元の人々には「ン」を避けるようにという言い伝えがあった。
夜になると、この彫刻の周りで奇怪な現象が起こると言われていたからだ。
主人公の加藤は、友達と一緒に夜の公園に遊びに行くことにした。
彼はこの言い伝えを半信半疑で聞いていたが、「ただの噂だろう」と思っていた。
彼と友達の佐藤、田中、そして美咲は、夜の静けさの中で公園に着くと、まず何をするかを話し合った。
「ンの周りで肝試しでもしようよ」と佐藤が提案した。
全員が賛成する中、加藤だけは少し戸惑っていた。
しかし、仲間に負けじと彼も参加することに決めた。
彼らは少しずつ彫刻の近くに近づき、周囲の気配に注意を払った。
彫刻の近くに立つと、急に空気が重くなったような気がした。
心地よい風が止まり、周りは静まり返っていた。
その瞬間、加藤は彫刻の表面に何か書かれているのを見つけた。
「る」とだけ書かれていた。
興味を持った加藤は、手を伸ばして確認しようとした。
しかし、美咲が急に「やめて!触らないで!」と叫んだ。
彼女の声にびっくりし、加藤も手を引っ込めた。
美咲は顔を真っ青にして、「それ、会った人はみんな目が潰れるっていううわさがあるの」と言った。
周囲には一瞬の沈黙が支配し、皆は顔を見合わせた。
「大げさだよ」と田中が笑ったが、その声は空虚に響くだけだった。
互いの不安が増す中、加藤はもう一度彫刻をじっと見つめた。
すると、「あれ?」と彼は思った。
誰かが彫刻の後ろにいるような気配がしたのだ。
「見間違いだろう」と思いつつ、加藤はふと後ろを振り返った。
何もいなかったはずだが、彼の心の奥では、「執念」が生まれ始めた。
気のせいかもしれないが、何かが見ているような感触が彼の背筋に冷たいものを走らせた。
そのとき、佐藤が急に姿を消した。
「佐藤!」皆が叫んだが、彼の声は空に吸い込まれてしまった。
加藤は心臓が高鳴るのを感じながら、公園のあちらこちらを探し始めた。
彫刻の周りには彼の姿は見えず、ただ重苦しい沈黙だけが支配していた。
「もう帰ろう」と美咲が言ったが、加藤はその言葉が心の底から怖かった。
心のどこかで、彼が何かを見つけなければ、同じように彼らも消えてしまうのではないかという恐怖に駆られていた。
彼は再び「ン」を見つめた。
その瞬間、彫刻の周りに何かが現れた。
「何かがくる」と瞬時に思ったが、すでに逃げることはできなかった。
彫刻の形が変わり、まるで彼を呼ぶように動き出したのだ。
そして、その波動に引き寄せられるように、加藤も美咲も周りの影に飲み込まれてしまった。
次の瞬間、加藤は気がつくと公園の一角に立っていた。
周囲には静まり返った空間と、空虚な彫刻があった。
彼は急いで仲間たちを呼んだが、返事はない。
「執」に満ち溢れた不安に彼の心は重くなり、彫刻に背を向けることすらできなかった。
結局、加藤は一人で公園の出口へ向かうことにした。
思い出すのは「会」の場所、そして彫刻の隣で一緒に遊んだ友人たちの姿。
しかしそれは永遠に戻らない思い出と化してしまったのだろうか。
幽霊のように彫刻を見つめながら、彼は今でも「る」と彫られた文字を忘れられずに生きていた。