「影の試練」

深夜の町外れ、閑静な住宅街にぽつんと佇む古びた公民館があった。
この公民館は、地域の子どもたちや住民の集まりの場として利用されていたが、近年は使用されることも少なくなり、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
噂では、ここで過去に行われた試練のような集まりが失敗した際、その余韻が今も残っているという。

一人の男性、川崎誠は、興味本位でその公民館を訪れた。
彼は、大学の怪談サークルに所属する学生で、怖い話を収集してはみんなで語り合うのが楽しみだった。
今日は仲間たちに話すための新しい逸話を見つけるつもりだった。
しかし、彼が公民館に足を踏み入れると、予想以上の静寂に包まれ、背筋がぞっとした。

誠は薄暗い廊下を進み、昔のまま残されている部屋の扉を開けた。
そこには小さな舞台が設けられ、その周りには古い椅子が並んでいた。
舞台の中央には、一枚の白い幕が下がっていて、その幕の向こうからかすかな音が聞こえてくる。
「えっ」と思わず声を漏らしたが、その音はただの風の音だろうと自分に言い聞かせた。

舞台上をじっと見つめていると、何かが動いた気配がした。
誠は心臓が高鳴るのを感じながら、近づいて行った。
幕の向こう側には、誰かがいるのかもしれない。
この瞬間、彼は気づいた。
公民館には、特別な試練が存在するという噂が本当かもしれないと。
彼は覚悟を決め、幕を引いて中を覗くことにした。

だが、彼が引いた幕の向こうには、誰もいなかった。
静まり返った舞台の真ん中に立つと、彼は自分の心臓の音だけが響き、周囲の静けさが異様に大きく感じられた。
そして、その静けさの中で、急に耳元に「試してごらん」という声が響いた。

驚いた誠は思わず後ずさり、その音がただの心の声なのか、それとも誰かによるものなのかを悩んだが、その瞬間、舞台にあった白い幕が強風で揺れるように揺れた。
その様子に恐怖を感じながらも、彼は再び舞台に向かい、声の正体を探ろうと思った。
すると、舞台の上にはいつの間にか小さな鏡が現れていた。

鏡をじっと見つめると、彼の後ろに微かな影が映り込んだ。
「ああ、何が起こっているのか…」誠は心の中で叫んだ。
影は彼をじっと見つめ返しているようだった。
その瞬間、彼の目の前に何かが閃光のように現れ、彼の視界は真っ白になった。

次に気づいた時、彼は公民館の外にいた。
ただ、周囲は異様に静かで、風の音すら感じることができなかった。
そして彼は、まるでまひしているかのように動けなくなった。
その時、背後から声が響いてきた。
「試したでしょう?次はあなたの番です。」

振り返った瞬間、そこには異形の存在が立っていた。
その存在は顔がなく、身体の輪郭がぼんやりとし、まるで影そのもののようだった。
誠は恐怖で動けず、その存在に向けて一歩踏み出すことができなかった。
存在は言葉を続けた。
「あなたの試練は、目の前にいる者の中から自分を見つけることです。」

誠はその言葉に戸惑いながらも、自分が何を試されているのかを理解し始めた。
彼は公民館の風景を思い出し、そこで起こったすべての出来事が彼に何を求めているのかを考え始めた。
果たしてそれは、恐怖に屈することなのか、それとも自身の力で恐れを克服することなのか。

心の中で葛藤しながら、彼は一歩前に踏み出した。
恐怖に満ちた自分の内面と向き合うその瞬間、誠は成長を遂げていった。
公民館の静けさが彼の心に感化し、試練は確かに存在した。
そして、彼はその試練を乗り越えたことで、恐れから解放されたのだった。

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