「忘れられた名の呼び声」

大学生の祐介は、友人たちと一緒に心霊スポットとして有名な「たつの山」を訪れた。
これは、古くから語り継がれる不気味な伝説の舞台であり、夜になると多くの人々が気を引かれる場所であった。
その夜、仲間たちとキャンプをしながら怖い話を共有し、肝試しの雰囲気を楽しんでいた。
しかし、祐介はその場所に足を踏み入れた瞬間、何かが彼を異次元に引きずり込むような感覚に襲われた。

「本当に何かいるんじゃないか?」友人の隆治が言った。
彼は怯えた声で周囲を見回している。
そんな彼らの興奮に水を差すように、近くのさざ波の音が耳に不気味に響く。
恐ろしい想像が頭をよぎり、祐介は不安が募る。

夜が深くなり、仲間たちがそれぞれテントの中に入っていく中、祐介だけは外に残り、山の静寂に耳を傾けていた。
すると突然、目の前にひとつの影が現れる。
それは一人の女性だった。
彼女はすらりとした体型で、白い服を纏っていた。
しかし、その顔ははっきりとは見えなかった。
薄暗い中で彼女はその場に立ち尽くしていた。

「こんばんは」と声をかける勇気も無く、祐介はただその存在を見つめる。
彼女は微笑みもせず、ただじっと彼を見つめ返していた。

「私を覚えている?」と、彼女が口を開いた。
その声はまるで風の音のように、耳元でささやくように響いた。
祐介はその言葉の意味が分からず、ただ戸惑うばかりだった。
「え、何のこと?」と、祐介は口を開いたものの、その瞬間、女性の姿は霧のように消えていった。

突然のことに驚いた祐介は、心臓が高鳴り、冷や汗が頬を伝った。
それでも何か気になる思いが残っていた。
彼女が本当に存在したのか、それとも幻だったのか。
祐介は友人たちにそのことを話そうとは思わなかった。
あまりに非現実的な出来事で、信じてもらえないのではないかと心配したからだ。

数日後、大学に戻った祐介はそのことが頭から離れず、日々の生活を送るのが難しくなった。
何をするにも、その女性の声が耳に残り、彼女が何を訴えたのかを知りたくなった。
意を決し、再びたつの山を訪れることにした。
今度は一人で、彼女の様子を見に行くことにしたのだ。

再びその場所に立ったとき、心臓が高鳴り、不安に胸が締め付けられる。
しかし、彼女の姿はなかった。
あの日の記憶が脳裏に浮かぶ。
さらに深く山へ進むと、不意に小さな道に出る。
その道を辿っていくと、ある小さな古い木造の家が見えた。
まるで誰かが住んでいたかのような、忘れ去られた雰囲気が漂っていた。

祐介は足を踏み入れると、そこに一枚の写真が落ちているのを見つけた。
乱れた髪をかき上げ、笑顔を浮かべたのはやはりあの女性だった。
何か心の中で引っかかるものを感じたが、その瞬間、頭の中に「らま」という言葉が響いた。
彼女の名前は「らま」だったのだ。

「らま、忘れないよ。」声に出すと、不意に風が吹き抜けた。
その瞬間、祐介は彼女の消息に関する何かを感じ取った。
それは、未練や悲しみが溶け出すように、彼女が誰かに思い出してほしいという願いだった。
彼女がここに残った理由や、その背景についても考えが深まる。

帰り道、祐介は再び彼女のことを思い出し、何か切ない気持ちに包まれた。
彼女の存在を忘れず、また次回来ることを心に決めた。
そしてその思いを大切にすることこそが、「気」の流れを生み出し、自分の心を彼女のことを思い出す手助けとなると信じた。
その日から、彼にとっては「らま」はただの幽霊ではなく、思い出すべき大切な存在となった。

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