静かな夜、官は仕事からの帰り道に一つの小さな村を通り過ぎることにした。
この村には、過去に異常な出来事が多発したという噂があったが、好奇心に駆られた官はその噂を確かめるために立ち寄ることにした。
村の入り口には「立入禁止」の看板がかかっていたが、それも気にせず進んで行った。
村の中心には古びた神社があった。
官が近づくと、神社の周囲には異様な雰囲気が漂っていた。
朽ち果てた社殿や、雑草が生い茂る境内は長い間手入れされていないように見えた。
だが、彼の目を引いたのは、神社の中央に立っている大きな木だった。
その木はやけに太く、気味の悪いほど真っ直ぐに伸びていた。
その木の周りには、無数の目があるかのように見える。
夜の闇に黒く浮かぶそれは、不気味な光を放っていた。
官はその目が自分を見つめているような気がして、不安を感じた。
だが、恐れを抱きつつも、彼はそのまま木の下に立ち尽くした。
その瞬間、官の耳には低いささやきが聞こえてきた。
「こちらへおいで…」それは女性の声で、何かに誘われるように感じた。
あまりの恐怖に足がすくんで動けなかったが、何かに引き寄せられるように木に近づいてしまった。
その瞬間、周囲の暗闇が一層濃くなり、もはや何も見えない状態になった。
突然、官の目の前にあの目が現れた。
それはこれまでに見たこともない、不気味な輝きを放つ目で、彼は言葉を失った。
その目がじっと自分を見つめ返してくる。
その目には、恐ろしいほどの知恵と悪意が宿っているように感じられた。
官は思わず後退り、背後を振り返ると、いつの間にか彼の背後には何かが立っていた。
それは目のない、人型の影だった。
厚い闇の中から無言で伸びてくるその存在は、官を捕まえようとして近づいてくる。
恐怖で体が動かなくなり、彼はその場から逃げ出すことができなかった。
影は黒い手を伸ばし、官の腕を掴んだ。
「誰か助けて!」官は必死に叫んだが、村は静まり返っていた。
逃げ出そうとしたが、その影はありえない力を持っており、官を神社の中へと引き込んでいった。
神社の奥には神秘的な空間が広がっていた。
そこには昔の呪いに閉じ込められた人々の姿が見えた。
その目は全て、官の目と同じように映し出されていた。
彼らの表情は怯え、絶望していた。
官はその光景に思わず目を背けたが、同時に興味に駆られていた。
影は官を強引に引き寄せ、「この目がある限り、永遠に脱出することはできない」とささやいた。
官はその瞬間、自分が今まで抱いていた興味と好奇心が恐ろしい代償を伴うものであったことを理解した。
周囲の目は彼を見つめながら、彼の存在を無視することなく、ひたすらに彼を見続けていた。
恐怖と罪悪感が同時に襲い掛かり、官は恐れに囚われた。
その夜、村の人々は神社に近づくこともなかった。
噂はますます広まり、誰もが「目の村」と呼び、近くを通り過ぎることさえためらった。
官は、永遠の闇の中で、目に見えない囚人として過ごすことになった。
彼の好奇心は、何もかもを失った代償として、石のように静まり返った村に深く染み込んでいった。