昔、ある村に住む青年、田中浩一は、日々の生活に満足できずにいた。
彼は若いころから冒険心に溢れ、新しいことを試すことが好きだった。
また、浩一は幼いころから地元の伝説を耳にしていた。
特に「生霊(いきりょう)」についての話は、彼の興味を強く惹きつけた。
生霊とは、生きている人間が他者に対して送る意識体で、悪意を持ったものが登場すると言われていた。
この話を聞くたびに、浩一の心には興奮と恐怖が混在していた。
ある夜、浩一は仲間たちと集まり、ホラー話をすることにした。
その中で、彼の友人である佐藤卓也が、「生霊にはあらゆる形がある。恐ろしいことになるかもしれないから、絶対に試してはいけない」と警告した。
しかし、その言葉にもかかわらず、浩一の好奇心は抑えきれなかった。
その夜、彼は一人で自宅に帰る道すがら、ふと思いついた。
村の外れにある古びた神社で「生霊」を呼び出そうと決意したのだ。
そこには、昔から「い」を残している神木があり、悪影響から人々を守っていると信じられていた。
彼はこの神木へと向かう途中、心の奥で一種のワクワク感を感じていた。
神社に到着すると、冷たい風が彼の髪を撫でた。
浩一は神木の前に立ち、心の中で「生霊、私を見せてほしい」と唱えた。
その瞬間、彼の目の前がかすかに揺らぎ始めた。
何かが彼を見ているような感覚があり、心臓が早く鼓動を打ち始めた。
しばらく待つと、小さな影が神木の周りを巡るのが見えた。
その影は徐々に形を持っていくと、女性の姿が浮かび上がった。
彼女は薄い白い衣をまとい、長い髪は風に舞っていた。
浩一は、驚きと同時に恐怖心を抱いたが、その美しさに惹かれてしまった。
彼女は微笑み、浩一の方へと手を差し伸べた。
彼は無意識にその手を取りそうになったが、その瞬間、彼女の目が急に冷たくなった。
視線が逸れた瞬間、周囲が暗くなり、風が強まり始めた。
その冷たい空気が彼の肌を刺すように感じた。
彼は恐れを抱きつつも、その場から逃げ出すことができなかった。
彼女の声が響いた。
「私を呼んだのはあなたでしょう?生きているものに対して、私は永遠の影を持っているのよ」と囁かれ、浩一の意識が遠のいていくのを感じた。
奇妙な現象に包まれ、彼の目の前にはかつて見たことがないような景色が広がっていた。
彼の周囲には、様々な人々の生霊が漂っていた。
彼らは生きたまま、存在していた。
しかし、彼らの表情は曇っていて、どこか哀しげだった。
その時、浩一は何かが間違っていると気づいた。
それは生霊たちの不安と怒りを感じ取ることであった。
「私を生かして…!生き残らなければならない!」という叫び声が耳に響き、その声は次第に大きくなっていった。
逃げられない、と浩一は確信した。
彼は生霊たちが求める「生」の重圧を感じ、もがき苦しんでいた。
生霊になることが、どれほど恐ろしいことかを理解し始めていた。
やがて、浩一は意識を失い、暗闇の中で目を覚ました。
彼は神社の境内に横たわっていた。
周囲には神木が静かに立っていたが、彼の目には何も映っていなかった。
その後、彼は生霊の恐怖と存在の重さから逃れるため、村を離れる決意をした。
数年後、浩一は新しい村で新生活を始めたが、時折夢の中であの女性の姿を見かけることがあった。
彼女の冷たい目と悲しげな声は、彼に暗闇を思い起こさせる。
それでも彼は、彼女との再会を願い続け、彼女が彼の心の中で永遠に生き続けることを知っていた。
どれだけ祈っても、消えない影の存在に苦しみながら、生と死の狭間で生きることになってしまったのだ。