「気の森の異界」

ある小さな村には、代々伝わる不気味な伝説があった。
その村の端には、誰も近づきたがらない古びた森があった。
人々はその森を「気の森」と呼び、決してその中に入ってはいけないと子供たちに教えていた。
昔、森の奥深くで、異世界への扉が開かれ、そこから恐ろしい存在がこの界に現れたのだという。
その時に起きた事件が、今も村に恐怖をもたらしている。

その伝説を信じない若者の一人、和也は、友人たちと共にその森に行くことを決めた。
「ただの噂だろう。大丈夫さ、誰もいない夜に行けば、何も起こらないはずだ」と彼は言った。
友人たちは最初は微妙な顔をしたが、結局彼に説得され、夜中に森へ足を運ぶことにした。

薄暗い森に入ると、木々が覆いかぶさり、月明かりが差し込むことは少なかった。
彼らはどんどん奥に進み、次第に不安が募ってきた。
「もう戻ろうよ」と友人の一人が言ったが、和也は「まだ大丈夫だ、少しだけ探索しよう」と前に進んだ。

ある地点にたどり着くと、周囲は急に静まり返った。
そして、彼らの目の前には不思議な光が現れた。
その光は緩やかに pulsate しながら、奇妙な音を奏でていた。
「気の森」に存在するという扉だと、和也は思った。
その光に引き寄せられるように、彼は進んでいった。

友人たちは心配しながらも和也を追った。
「何か変だよ、早くこの場所から出よう!」と叫んだが、和也は既に光の中に触れていた。
彼の手が光に触れた瞬間、突然世界は回転し始めた。
周囲が歪み、光の中に吸い込まれていく感覚が全身を包んだ。

目を開けると、彼は見慣れない場所に立っていた。
空は異様に紫色に染まり、どこからともなく微かに響く歌声が聞こえてくる。
和也は周囲を見ると、彼の友人たちは全く異なる姿に変わってしまっていた。
恐れを抱えた顔で、何かに怯えているようだった。

「ここは……どこなんだ?」和也は呆然とつぶやいた。
その瞬間、彼の目の前に異形の生物が現れた。
人間のような形をしているが、顔は恐ろしいほどに歪んでいる。
その存在は、まさに彼が伝説で聞いた恐怖の象徴だった。

「ここに来たのはお前たちの意志だ。しかし、今さら後悔しても遅い」と生物は低い声で言った。
「お前たちの『気』、それを奪わせてもらう。」和也は恐怖に震えながらも必死に逃げ出そうとしたが、周囲の視界がぼやけていき、次第に意識が朦朧としてきた。

もがきながらも、彼は友人たちを呼んだ。
「早く、戻ろう!ここから出よう!」その声が届いていたのか、友人たちも何とか意識を保とうとしていた。
彼らは連携を試み、異生物の注意を逸らすことで逃げるチャンスを得ようとしたが、二度目の恐怖の瞬間、再び彼らは吸い寄せられるように、光の渦に飲み込まれた。

次の瞬間、和也は森に戻っていた。
友人たちも姿を見せたが、彼らの表情には恐怖がにじんでいた。
「この森には、もう二度と近づかない方がいい。気の森は、私たちの精神をも蝕む場所なんだ」と一人が言った。
その言葉に、他の仲間も頷いた。

彼らはその後すぐに村に戻り、あの森には二度と足を踏み入れなかった。
だが、和也の心の奥には何かが残っていた。
異界との接触から来る不安と、友人たちの顔に浮かぶ怯え。
彼らの記憶の中で、その恐怖は消えることなく生き続けているのだった。

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