古びた公民館の片隅には、誰もが恐れを抱く部屋があった。
地元の噂によると、その部屋には「看」の現象が起こるという。
正確には、異様な「間」をもって、時々「封」じられたものが現れるのだという。
しかし、その真相を知る者は誰もいなかった。
その日、翔太は友人たちと肝試しをすることにした。
高揚した気分で、公民館に忍び込む。
薄暗い廊下を進むにつれ、心臓が高鳴り、背中に何かぞわぞわとした感覚が走る。
友人の中には、そこに何かが潜んでいると信じる者もいれば、単なる都市伝説だと笑い飛ばす者もいた。
「さあ、行こうぜ!」と勇敢に先頭を切るのは、友人の佳奈。
彼女は肝試しのリーダーで、何事にもアグレッシブな性格だ。
翔太は小さくうなずき、他の友人たちと共に佳奈の後を追った。
廊下を抜け、ついにその部屋の前に辿り着く。
ドアは何年も開かれることなく、厚い埃が溜まり、黒ずんでいた。
「恐いなら、さっさと逃げればいい」と佳奈は笑いながらドアを開ける。
ぎしぎしと音を立て、空気が一瞬にして冷たくなった。
彼らの視線がその中に吸い込まれるように、誰もが仲間と目を合わせ、躊躇していた。
一歩踏み入れた途端、目の前の光景に息を呑む。
部屋には古びた机が一つ、暗い隅には何かが「封じられている」ようだった。
まるで時間が止まったかのように、周囲は静まり返り、彼らの心拍音だけが異様に響く。
そこで翔太はふと、自分の目の前に「間」が生まれたように感じた。
実際には何も起こっていないはずだが、彼の気持ちはどこか真実味を帯びている。
「見て!あれ、何か動いてる!」友人の一人が指差す。
まさにその瞬間、部屋が震えるような感覚に包まれ、翔太は何か恐ろしいものが近づいてくるのを感じた。
彼の心に響いたのは「看」の声。
まるで誰かがその場にいるかのように感じるのだ。
佳奈も怯えた表情を見せ、「もう行こうよ」と訴える。
だが、その時、翔太は奇妙な運命を感じていた。
まるで自分自身がこの部屋にとどめられるような錯覚だ。
「ここから出られない」と思った瞬間、彼の視界に封じられたものがちらりと映った。
暗闇の中で、微かに生きた存在と化した「間」がそこにあった。
恐れに駆られた翔太は足を動かすこともできず、ただ見つめていた。
友人たちが急いで出ようとする中、翔太だけがその場に留まっていた。
彼は立ち尽くし、包み込むような静寂の中で感じる奇妙な「看」と向き合う。
「だめだ、出なきゃ」と思いながらも、彼の背後には幸福とは程遠い何かが迫っていた。
翔太の意識はどんどん薄れていき、まるで別の次元に引き込まれるかのように感覚が揺らいだ。
そしてついに、その「封じられたもの」が姿を現した。
翔太はただ見つめるしかできない。
「何を求めているのか?」彼の心に疑問が湧く。
だが、答えは与えられなかった。
友人たちの呼び声に引き戻され、翔太は一瞬の隙をついてその場を逃げ出した。
外に出た瞬間、心臓が今まで感じたことのない痛みを訴える。
しかし、心の中には何かが残った。
あの「看」が彼を見つめていたような気がしたのだ。
その後、翔太は何度も夢にその公民館が現れ、またあの部屋に戻るように導かれていく。
彼は他の誰にも気づかれないまま、永遠にその「間」に捕らわれている。
彼は心の何処かで、再びその封じられた場所に行きたがっているのではないかと、恐れながら思うのだった。