ある静かな夜、神社の境内に位置する小さな祠。
そこでは古びた木がそびえ立ち、枝葉が風に揺れていた。
この祠には、村人たちから「師」と呼ばれる存在が住み、彼に救いを求める者たちが訪れていた。
彼の名は清志。
彼は信仰心の強い人々から、神の使いとして崇められていた。
その夜、村の若者たちが恐るべき噂を囁いていた。
人々は「ち」と呼ばれる不可解な現象に悩まされていた。
深夜、無数の目が彼らを見つめているかのような感覚に襲われ、気がつくとどこかの空間から引きずり込まれている様子が目撃されるというのだ。
その「ち」の正体は不明で、村全体が不安に包まれていた。
清志は、村の人々に深い愛情を持ち、彼らの苦しみを理解していた。
しかし、若者たちの噂が広がるにつれ、彼の心には次第に不安が募る。
自分には彼らを救う力があるのか？本当に「ち」の存在を解きほぐせるのか？
ある晩、彼の元に一人の若者が訪れた。
名は健太。
彼は顔面蒼白で、喉が詰まったように震えていた。
「師、僕は見てしまったんです。夜中に、あの空間に引きずり込まれそうになった…」
清志の胸にざらりとした冷たいものが流れ込む。
「何を見たか、詳しく教えてくれ」と彼は優しく問うた。
健太は、夜の森の中で感じた目に捉えられた恐怖を語り始めた。
その瞬間、清志は自分自身の心の奥にある恐怖が呼び覚まされるのを感じた。
冷静さを保とうとしたが、内心はざわめきが止まらなかった。
「私が救えることができるのか…」「あの「ち」を解放することができるのか…」と自問自答する彼は、健太に寄り添って言葉を返した。
「私はあなたを決して見捨てない。ともにこの謎を解き明かそう。」
二人は、神社の境内で夜を明かすことを決意した。
彼らは、恐れを抱えながらも、計画を立て、しっかりとした心を持つことにした。
夕暮れが迫る中、ふと彼は清めの儀式を思いついた。
神の助けを求める儀式を行い、すべての魂を導くための祈りを捧げようと考えたのだ。
夜が濃くなり、月明かりだけが境内を照らしていた。
その瞬間、異様な冷気が二人の周囲に立ち込めた。
清志は心を落ち着け、祈りをささげ続けた。
静寂の中で、不気味なざわめきが聞こえてくる。
「私たちの声を聞いて…」と、心の奥から叫ぶように彼は強く願った。
突然、空間の異変が起きた。
暗闇の中から、無数の目がこちらを見つめている。
清志は恐怖に身を震わせながらも、決して健太を見捨てることはできなかった。
「君のために、私はここにいる！私を信じて！」
そのとき、闇から一筋の光が差し込んできた。
清志はその光を目指して、手を伸ばした。
「悪しきものを黄泉に返すため、我が声を届け！」
不意に影が彼に襲いかかろうとした瞬間、健太が清志の手を掴んだ。
「師、僕も一緒にいます！」彼の言葉に力を得た清志は、自らの信念を全うするために声を張り上げた。
「我らに助けを与えたまえ、救いの手を！」
無数の視線が衝突し、闇が一瞬のうちに裂けた。
清志が持つ光は強烈で、影たちは次々に消えていった。
「ち」の正体は、村を怨む悪霊の集合だった。
それが清志と健太の強い意志に反応し、消え去っていく。
静けさが戻り、健太は清志を見上げた。
彼の目には感謝の色が宿っていた。
「私たちは成功したのですか？」清志は頷いた。
「私たちは、共に恐れを乗り越えた。救われたのだ。」
神社の周囲に平和が戻り、村はその後も清志の礼拝を続け、彼を賛美した。
しかし、彼はいつまでも忘れない。
一度は「ち」によって悩まされた恐怖の記憶を。
