ある夏の晩、商君は友人たちと肝試しに出かけることになった。
選ばれた舞台は、近くの沼。
地元ではその沼は何かが住んでいるという噂が絶えなかった。
暗く沈んだ水面を見ていると、どこか不気味な気配を感じる。
友人たちの中で最も元気な大輔は「怖がるなよ」と笑いながら、商を誘った。
「いや、行くのはいいけど、本当に何かいるのか?」
「大丈夫、大したことないよ。みんなで何か見つけるまで行こうぜ!」
こうして、商はためらいながらも沼の近くに足を運んだ。
夜が深まると、周りはさまざまな音に包まれ始める。
カエルの鳴き声、風の音、時折現れる虫の羽音。
まるで、自然が彼らを警告しているかのようだった。
しかし、大輔は気にせずに先を急いだ。
沼の近くに着くと、彼らは周りを見渡す。
そして、商はふと目を丸くした。
水面が波立ち、何かが動いているように見えた。
大輔がそれを見て笑い、「お化けでもいるのか?」と言った。
商は答えず、ただただその瞬間を見つめていた。
しばらくすると、風が少し吹き、薄暗い空気が一層冷たく感じられる。
商は「もう帰ったほうがいいんじゃないか」と言ったが、大輔は耳を貸さず、さらに近づくように勧めた。
すると、突然、商の視界に何かが映り込む。
それは、人のような形をした影だ。
「み、見て!あれ、あれ何?」
友人たちも振り向き、驚きの声を上げた。
その影は水面に浮かび、ゆっくりと近づいてくる。
その姿は、ただの人影ではなく、長い髪を持ち、無表情でじっと彼らを見つめていた。
商は恐怖に震え、後ずさりしたが、大輔は興奮しながら「行こう、行ってみよう!」と駆け寄ろうとした。
「待って!やめて!」
商は必死に叫んだが、大輔は水辺に手を伸ばす。
すると突然、その影が水面から飛び出し、彼の手を掴んだ。
それは冷たく、まるで氷のような感触だった。
大輔は驚いて悲鳴を上げ、すぐに引き戻した。
その瞬間、商は不思議な感覚に襲われる。
水面は再び静まり返り、影も消えた。
しかし、心の中で何かが引かれる感覚が残り続けた。
夜の静寂が戻り、友人たちの笑い声は消えて、ただ気まずい沈黙が周りを包む。
怖さが増した商は、振り返り、「もう帰ろう」と言った。
しかし、大輔は興奮冷めやらぬ様子で「もう一回見てみよう!きっとあれには理由があるんだ」と強く言った。
商は反対するが、他の仲間たちも大輔に賛同する。
いつしか、商は一人だけその場に留まる決意を固めた。
「一緒に帰りなよ」と呼びかける彼に、友人たちはついに沼に目を奪われる。
商の心には、あの影の引き寄せられる感覚が強く残っていた。
すると、耳元でかすかな囁きが聞こえた。
「索っている…、索っている…」
その言葉が商の心の奥底に響く。
確かに私たちは何を求めているのか。
それに気づいた瞬間、実体のない何かが背後に迫ってくるように感じた。
だが、大輔たちは楽しさのあまり周囲に気づいていない。
商は恐れを感じながらも友人たちのところへ向かおうとしたが、足は動かず、何かに引き戻される。
そこには、あの影が再び現れ、商をじっと見つめていた。
彼女の目から何かを求めるような感情が溢れ出ていた。
商は引き寄せられるようにその影に近づいて行く。
「助けて…」その瞬間、彼女の声が商の耳に響く。
商の視界が急にぼやけ、コントロールを失ってしまった。
そのとき、友人たちの笑い声が遠のき、沼の静けさに飲み込まれていった。
そして商は、恐ろしい真実を知ることになる。
この沼には、求めていた存在がいたのだ。
その夜、商の姿は見えなくなってしまった。
友人たちは帰り道で騒ぎ続けたが、商は永遠に沼に残ることとなった。
暗闇の中、彼女は今もまた、何かを求め続けている。