「間の囁き」

深い森の奥にひっそりと佇む「間」と呼ばれる場所。
そこは、かつて人々が往来していた道がいつの間にか消え、ただの空間として存在し続けていた。
人々は「間」を恐れ、近づくことを避けていたが、そこにはある秘密が秘められていた。

ある年の夏、小さな村に住む青年、清志は心やすらぐ日々を送っていた。
彼は好奇心旺盛で噂話を聞くのが好きだった。
そして、ある晩、村の古老から「間」に関する話を耳にすることになる。
古老は口を開き、語り始めた。

「昔、この場所には村人が多く住んでいた。しかし恐ろしい呪いによって、今はただの間になった。時折、音がすることで知られている。その音は亡くなった人々の思念が集まったもので、聞く者に不幸をもたらすと言われている。」

その話を聞いた清志は興味を持ち、恐れを感じつつも「間」を訪れることに決めた。
彼は友人の佐藤と共にその晩、森へと向かった。
月の光が薄暗い森の中を照らし、二人は心を躍らせながら進んでいった。

「この場所だね」と佐藤が言うと、清志は頷いた。
間には何もない。
静寂が漂い、ただ風の音だけが響いていた。
しかし、次の瞬間、彼らの耳に案外近くから「キィ…キィ…」という妙な音が聞こえた。

「何だ、あれ?」清志は眉をひそめた。
佐藤も緊張した様子で周囲を見回す。
音は徐々に大きくなり、まるで誰かがささやくような声が混じり始めた。

「助けて…助けて…」それは微かだが、じわじわと感じる恐怖の種を育む響きだった。
清志は動揺し、佐藤に声をかけようとしたが、その声は喉の奥に引っかかってしまった。

「逃げよう、早く!」と佐藤が叫び、二人は森を駆け出した。
しかし、音は続き、どんどん近づいてくる気配を感じる。
「絶対に出てくるなよ!」清志は心の中で呟いたが、その思いは虚しく響くばかりだった。

森を抜け、ようやく村に戻った二人だったが、心の安らぎは戻って来なかった。
清志にはどこかおかしな感覚がこびりついていた。
何かが彼の中に住み着いているような感覚。
それはまるで「間」で聞いた呪いの音が影響を及ぼしているかのようだった。

日々が流れる中、清志の周りで不幸な出来事が起こり始めた。
友人が病に倒れ、家族が事故に遭う。
そして、彼自身も夢の中で「間」の声を聞くようになってしまった。
「助けて…助けて…」その声は彼を呪縛し続けた。

ついには精神的にも追い詰められ、清志は自らの運命を悟った。
彼は最悪の選択を迎えてしまう。
ある夜、彼は再び「間」へと足を運んだ。
村の恐怖から解放されるために。
そこに立つと、音は再び聞こえ始めた。
「こっちに来て…助けてあげる…」

清志は、自らの手で呪いを解く決意を固め、目を閉じ、耳を澄ませた。
音が彼の体に響き、心を震わせた。
その瞬間、彼の意識の中に放たれた「真」の思念が、呪いの音を打ち消す力になったかのように感じた。
そして、彼は全てを受け入れた。

「助けを、求めるのは私だ」と彼は呟き、再び魂の響きに身を寄せて目を開けた。
冷たい風が彼を包み込み、音は徐々に消えていった。
空間は静寂に包まれ、清志はその瞬間、記憶の奥底にしまい込まれていたのだった。

村に戻り、清志は以前のように穏やかな日々を送り始めた。
しかし「間」は、彼の心の中から消えた訳ではなかった。
彼の心には、あの囁きが刻み込まれ、呪いを受けた人々の思いと共に、長い時間をかけて生き続けていくのだった。

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