廃校となったその学び舎は、誰も近づかない場所になっていた。
かつては活気に溢れ、学生たちの笑い声が響いていたが、今は朽ち果てた廊下と、ほこりまみれの教室だけがその痕跡を留めている。
地元では「忘れられた学校」と呼ばれ、いくつもの噂話がそこに結びついていた。
ある夜、大学生の佐藤健一は友人たちと共に、肝試しにこの廃校へと足を運ぶことにした。
空が暗くなるにつれ、彼らは廃校の前に立った。
「マジでここに入るの?」と、友人の山田が不安そうな声を上げた。
健一は笑いながら、「ただの廃校だろ?怖がることなんてないよ」と言い放った。
しかし、心の中には薄ら寒いものが流れていた。
彼らは暗い校舎の中へと進んでいった。
窓はひび割れ、壁は剥がれ落ち、その光景は想像を超えていた。
「ここ、本当に人がいたの?」と、女性の友人、鈴木美咲が疑問を投げかける。
健一は、「ああ、でもこういう学校にはなんかの現象があるって噂だよ」と、話を広げた。
建物の奥へ進むと、何か異常な気配を感じるようになった。
健一は「ねぇ、あの教室に行ってみようよ」と提案した。
その教室は学校の中で最も恐れられている場所だった。
噂によると、そこでは「念」があふれているという。
教室の扉を押し開けると、古びた机と椅子が並び、壁には何かの文が書かれているのが見えた。
「助けて…」と、かすれた文字がかろうじて認識できた。
気持ちが悪くなり、健一はその場を離れようとしたが、周囲の空気が変わった気がした。
まるで彼らを引き留める何かが存在するかのように、教室は静まり返った。
突然、明かりが消え、暗闇に包まれた。
「おい、どうした?」と山田が叫んだ。
すぐに健一は懐中電灯を取り出し、周囲を照らした。
しかし、何かが分厚い闇の中に存在しているようで、彼の心臓が早鐘を打つ。
気配が増していくのを感じながら、健一は恐怖に駆られた。
「早く出よう、ここを出よう!」と言い放った。
しかし、その時、何かが彼の背後から迫ってくる感覚を覚えた。
「出られない…出られない…」かすかな声が彼の耳に届き、その瞬間、健一は振り返った。
その瞬間、目の前に現れたには、無数の顔が浮かんでいた。
それは廃校に残された怨念の化身で、彼らを見つめていた。
「そんな…お前たちは誰だ?」と健一が恐る恐る尋ねると、その顔の一つが微笑んだ。
笑顔の影には暗い影が漂い、同時に彼らの思考の中に入り込んでくる感覚がした。
「出られない…出られない…」その声が繰り返される。
健一は必死に思考を巡らせ、自分たちが何も知らずにこの場所に来てしまったことを悟り、恐怖に駆られた。
「助けて」という言葉が、友人たちの心に残り、彼の声とは別の声が彼の中で響いていた。
何かが彼らを捕え、捨てきれない思いを残そうとしている。
それが「念」と呼ばれるものなのかもしれない。
自分たちの無知さ、恐れに囚われた心が、彼らの思考を覆い尽くす。
研ぎ澄まされた恐怖は、すぐそばで健一を包んでいく。
彼は逃げようとしたが、足が動かない。
「ここは出られない…ずっといるの?」その声が彼の心に響き、恐怖が彼を締め付けていく。
が、友人たちの呼びかけが彼の意識を引き戻した。
「健一、行こう!」
一瞬の迷いの後、健一は友人たちと手を繋ぎ、廃校の出口を目指した。
しかし、彼の心の中には、「目」を焦点にした恐怖が残り続けていた。
廃校の外に出て、ようやく自由を感じた瞬間、彼は振り返った。
その古びた校舎には、無数の影が漂い、背後から彼らを見つめていた。
人々の無理解から生まれた怨念が、この場所に残り続けるのだろう。
彼らは、決して忘れがたい体験を胸に持ち帰ったが、その記憶はいつか彼らの中で目覚め、消えることがないのかもしれない。
混沌とした思念がこの廃校を包む間、彼らは恐れを知らずに足を運ぶことができるだろうか。