山の奥深くに位置する小さな村、名は「白河村」。
そこはかつて栄えていた地方都市の一部であったが、過疎化が進み、今では人の気配が薄れていた。
山々に囲まれたこの村は、周囲の自然と一体となり、静寂に包まれている。
しかし、静けさの中にも何か不気味なものが潜んでいた。
ある晩、村に住む若者、佐藤健一は友人たちと共に山を登ることに決めた。
彼は都会で育ち、自然に触れることをあまり経験していなかったため、この冒険に心躍らせていた。
友人の中には、山にまつわる怖い話を知る者もいて、その話を聞くうちに、少しずつ興奮が恐怖に変わっていった。
「この山には、闇が潜んでいるんだ」と友人の一人、田中が言った。
「山の中で迷った者は、決して戻ってこないと言われている。彼らは闇に飲み込まれてしまうんだ。」
その言葉に健一は心の奥で寒気を感じたが、そこにある恐怖心よりも、冒険心が勝り、彼らは夜の山へと足を運んだ。
月が照らす静かな森の中で、彼らは明るい懐中電灯を持って歩を進めた。
突然、しんと静まり返る中で、一箇所だけが明るく輝く場所があった。
それは、薄明かりのように見える光だった。
「行ってみよう」と健一が言い、彼らは光のもとへと向かった。
近づくと不思議なことに、その光はまるで生きているかのように、柔らかく揺れていた。
明るさに引き寄せられるように、その場に立つと、どういうわけかその場の空気が変わり、まるで意識が遠のいていくような感覚に襲われた。
時が経つにつれ、彼らの心に不安が芽生えた。
それが「明」の前では、闇が待ち受けていることを誰もが感じ取っていた。
田中が恐るおそる振り返ると、山の深いところから、まるで闇が形を変えるように迫ってきていることに気づいた。
健一は動けずにいた。
「逃げよう!」と叫ぶ田中。
しかし、その瞬間、彼の足元から何かが伸びてきた。
それは、深い黒に包まれた何かの影だった。
彼らは恐怖に駆られ、一斉に走り出したが、目の前には村への道が霞み、方向感覚を失ってしまった。
「離れろ!」と叫ぶ健一の声が、ただの風に消えていく。
彼らは必死にそれぞれの道を目指したが、どの道もすべてが同じ「闇」に向かっているように感じた。
田中の声が再び聞こえた。
「こんな山、二度と来るもんか!」
その夜、村の人々は健一たちを捜索したが、彼らの姿はどこにも見つからなかった。
彼らの行方は闇の中に消えてしまった。
しかし、時折、村の人々は山の中から響く笑い声や、楽しそうな声を耳にすることがあった。
それは村の人々にとって、決して近づいてはいけない闇の呼び声だった。
数か月後、健一の親友、田中が村に戻ってきた。
しかし、彼の目にはどこか虚ろな光が宿っていた。
彼は「俺は明を見ることができた」と言い、それ以降村に留まることはなかった。
ただ、彼の後ろには、いつも暗い影が寄り添っていた。
村人たちは語り始めた。
「白河村には、山と明と闇が共存する場所がある。そこへ行ってしまうと、もう戻れなくなる。」それは、彼らが健一と田中を失った後も、村に語り継がれることとなった。
山の中に潜む「明」は、実は恐ろしい「闇」の一部であることを、彼らは理解しているのだった。