「母の光が導く道」

彼の名は達也。
達也は、静かな田舎町のはずれにある、古びた小学校跡地で過ごすことが多かった。
昔の面影はほとんど残っていないが、彼にとっては、この場所が自分の心の拠り所だった。
周囲には、数本の老木が立ち、その根元には時折カサカサと音を立てる乾いた葉っぱが落ちている。

ある晩、月明かりに照らされた校庭で達也は、何かに導かれるように歩き始めた。
突然、目の前にひときわ強い光が差し込んできた。
達也はその光に引き寄せられるように近づくと、思いがけず、彼の亡き母の姿を見つけてしまった。
彼女は柔らかな微笑みを浮かべ、彼に手を伸ばしていた。
達也は驚き、感動に震えながら母の名前を呼ぶ。

「お母さん……」

しかし、母は何も答えず、ただ光を放ち続けていた。
その光は、温かく、包み込むような優しさを感じさせた。
達也はその美しさに吸い寄せられ、思わずその手を取った。
しかし、彼女の手は冷たく、まるで実体のないもののようだった。
瞬間、彼の目の前に広がる光景は、遠い記憶の中の街並みに変わっていった。

幼き日の幸せだった思い出が次々と現れ、達也は自分の心の奥にある温かさを再確認する。
しかし、同時に達也は幼い自分が何を失ったのかを痛感していく。
母の存在、家族との温かな日々、そして、彼自身のかつての純粋な心。
その思い出は、彼を包み込むものとなっていた。

だが、光の中にいる母は徐々に薄れていき、達也の目の前から消えかけていった。
「待って、行かないで!」達也は手を伸ばしたが、何も掴むことはできなかった。

「私は、あなたの心の中にいるよ」と、母の声が響いた気がした。
達也は、その言葉を胸に刻み込み、彼の心の中に残り続ける母の記憶を大切にしようと決意した。

その時、周囲の光景は再び一変した。
今度は、達也が小学校で過ごした日々の姿が映し出された。
彼は仲間たちと遊び、先生に叱られ、友達と笑い合った日々。
だが、その背後には、小学校の悲しみも潜んでいた。
誰もいなくなった教室、壊れた机、かつての楽しい思い出を思い起こさせる、その場所から漂う寂しさが達也の心を締め付けた。

光がさらに強くなり、達也は目を細めた。
すると、もう一度母の存在を感じた瞬間、彼の中に新たな力が湧き上がるのを感じた。
「私はあなたを見守っているから、これからも生きていきなさい。」その言葉が彼の心に深く響いた。
母の愛、その記憶が彼を再生させる欠かせない要素となった。

気が付くと、達也は校庭に戻っていた。
柔らかな月明かりの下、心の奥にあった憎しみや悲しみは消え去り、今までの自分を受け入れることができるようになった。
彼は母の存在を心に留めながら、これからも前に進んでいくことを決意した。

時が経つと、達也は新たな道を歩み出すことを決意する。
あの夜の光がもたらした経験は、彼にとって一生忘れられないものになるだろう。
失ったものを悔いるのではなく、今ここにある人生を大切にして生きることが彼の新たな使命なのだ。
母の愛が光として彼を包み込み、達也はその光の中で新たな生を迎える準備ができていた。

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