田んぼの広がる静かな村、そこに住む高橋健太は、先祖代々続く家業を手伝いながら、平穏無事な日々を送っていた。
しかし、村で語り継がれる不気味な伝説が、彼の心には常に影を落としていた。
その伝説とは、田んぼの真ん中に現れる不思議な光の話である。
その光を目撃した者は、必ず不幸に見舞われるという。
村人たちはその光を「田の讐」と呼び、決して近づかないよう警告し合っていた。
ある暑い夏の晩、高橋は田んぼの手入れを終え帰路につく途中、ふと目の前にかすかな光を見つけた。
心臓が高鳴り、思わず立ち止まる。
光は田んぼの奥、かつて親友の山田が田植え中に転倒して亡くなった場所の方から差し込んでいた。
健太は混乱した気持ちを抱えながらも、その光に引き寄せられるように歩き始めた。
田の中に踏み入れると、さらにその光は強くなり、まるで彼を誘うかのように揺らめいていた。
近づくにつれ、心の奥に眠っていた罪悪感が甦った。
山田との約束を破り、彼を助けられなかった自分への後悔。
それは健太の心に重くのしかかっていた。
光の正体を探るため、彼はその場所に足を運んだ。
すると、目の前に現れたのは、山田の姿だった。
彼は薄い光に包まれながら、淡い微笑みを浮かべていた。
しかし、その笑顔は健太にとってどこか不気味に感じられた。
山田は自分を呼び寄せたかのように、ゆっくりと指を差した。
「ごめん、高橋。お前を助けられなかった。だから、お前の苦しみを分かち合いたい。」その言葉が響くと同時に、田んぼは急に暗くなり、風が吹き荒れた。
「お前が許してくれれば、また一緒に遊びたい。」山田の光がちらつき、恐怖が健太の心を締め付けた。
彼はその場から逃げようと振り返ったが、足が動かず動けなかった。
周囲の地面がうねり、田の水が彼の周りを覆い始める。
健太は無惨に山田を見捨てたその瞬間を思い出し、心が辛くなった。
「もう逃げないで、僕を見捨てないで。」山田の声は次第に悲しみを帯び、周囲の光が消えていく。
健太は彼の存在を信用したかったが、やがてその光はさらに弱まり、消えかけていった。
「いっしょに来てくれれば、もう一度戻れる。」その瞬間、健太は何かに取り込まれる感覚を覚えた。
健太は心の中で葛藤した。
「山田を助けられなかった俺が、どうしてお前を救えるんだ。」弱音を吐くと同時に、周囲を照らす光が再び強くなり、彼の内なる苦しみを照らし出した。
過去の自分、申し訳なさ、恐れ、全てが一緒になって彼を圧倒した。
「俺があの時、助けていれば…」思わず心の声が漏れた瞬間、周りの景色が変わり、健太は田んぼから押し戻された。
そこには乾いた土と静かな夜の村が広がり、何事もなかったかのように見えた。
翌朝、村人たちは高橋のもとに集まり、昨晩の光の話をしていた。
誰かが「田の讐に近づいたのか?」と尋ねた。
健太は黙り込むしかなかった。
そして、心に何か重たいものを抱えたまま、田植えの日々を再び迎えることになった。
山田の存在と約束は、彼の心に消えない傷として残り続けた。