ある晩、トンネルを抜けた先にある村に住む乗(のり)は、友人たちと遊びに出かけることになった。
普段は静かな田舎の村も、今日は賑やかに歓声が響き渡っている。
しかし、夜が深まり、一同は帰ることにした。
乗は車を運転することになったが、途中で道に迷ってしまった。
目的地の近くまで来ていたはずなのに、辺りはどこか不気味で、月明かりも細い道を照らすだけで、全貌を把握できない。
乗は友人たちと話しながら運転していたが、突然、何かが車の後ろに追走してくるのを感じた。
振り返ると、暗闇の中に薄ぼんやりとしたライトが見えた。
友人たちは「気のせいだろう」と言って笑ったが、乗はその影が徐々に近づいてきていることに気付いていた。
「ねえ、誰かが追いかけてきてる気がする」と言うと、友人たちはその言葉を軽く流したが、乗は不安を感じていた。
車は不気味な低音を響かせながら加速し、暗いトンネルの中へと進んでいく。
トンネルに入った瞬間、さらに不安感が増した。
トンネルの壁には見知らぬ文字が刻まれているように見え、何かが囁いているようにも思えた。
すると、その時、後ろのライトがふと消えた。
乗は安堵の息を漏らしながらも、何かがおかしいと感じた。
トンネルを出た瞬間、村の街灯が彼らを迎えたが、何かが変わっていた。
静まりかえった村の風景はどこか不気味で、友人たちも何かに怯えている様子だった。
気持ち悪い沈黙が続く中、後ろから聞こえるエンジン音に耳を澄ますと、少しずつ近づいてくる感覚があった。
「もう帰ろう」と友人の一人が言ったが、その言葉に乗は強く同意した。
彼は素早く車を発進させたが、すぐに同じ音が後ろで響き始めた。
「追いかけてきている…」心の中で何度も繰り返しながら、乗は車を急加速させた。
しかし、後ろの車はまるで彼をターゲットにしているかのように、音を立てて追い続けてきた。
乗の心臓は高鳴り、恐怖で押しつぶされそうだった。
周囲は静寂なのに、後ろから迫る音は異様に大きく感じられる。
その時、トンネルの入口が見え、急いで方向を変えた。
しかし、運転の腕が未熟な乗はカーブを曲がりきれず、車はガードレールに当たってしまった。
衝撃に身を委ねた瞬間、すべてが静まり返った。
後ろには何もなく、ただ冷たい汗をかいた乗の顔があり、一瞬にして全てが静止したように感じた。
「何が起きたんだ…?」と呟いた瞬間、彼の右側にあった窓が開き、何かが入り込んできた。
それはただの影のようで、視線が冷たく、何かを語りかけてくるようだった。
「帰れない」と無表情なまま、徐々に近づいてきた。
その影はじっと乗を見つめ、彼の心に深い恐怖を植え付ける。
思わず叫び声を上げようとした瞬間、乗は強い力で引き寄せられ、金縛りにあったかのように身動きが取れなくなった。
「私はここの住人だ」という声が耳元でささやかれ、村の深い闇の中へと引き込まれていく感覚がした。
朝方、乗の車は静かに村の入り口に置かれていたが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
友人たちが探し回ったが、村の人々は「そんな男はいない」と口を揃えて言うのだった。
村の伝説では、トンネルを越えた先には、かつて生きた人たちの思念が溜まる場所があり、灯りによって引き寄せられた者は帰れなくなるという。
それ以来、村の人々は夜を避け、トンネルを通るときには決して後ろを振り返らないようにしている。