ある日の夜、徳は友人たちと久しぶりに集まることになった。
場所は、近くの公園にある古びたベンチ。
友人たちは、夜の涼しい風に吹かれながら、近況や懐かしい話をした。
しばらくすると、話題は「怖い話」に移り、皆の心が高揚する。
しかし、その日は何となく空気が重く、会話の振動が異様な感じを醸し出していた。
皆が次々と怪談を披露する中、徳が語り始めた。
「昔、ある村に不気味な伝説があったんだ。その村には、毎年特定の日に、人々が夢の中で呼びかけられるという話だ。夢の中で呼ばれた者は、現実で何らかの形で消えてしまうと言われている。」徳の語りに、友人たちの顔は興味や恐怖の表情に変わっていった。
すると、林の奥から「突」という音がした。
それはまるで、何か大きなものが木にぶつかったかのような不気味な響きだった。
瞬間、友人たちの間に一瞬の静寂が訪れた。
徳は気まずさを感じ、「たぶん何かの動物だろう」と誤魔化したが、心の奥では、不安が広がっていた。
その夜、徳は寝る準備をするも、耳を澄ませば心の芯から響く音が気になり、眠れぬまま過ごした。
夢の中で、彼は突然、見知らぬ場所に立たされていた。
周囲は霧に包まれ、色のない無機質な世界。
「なぜ、ここにいるのか?」と徳が考えていると、目の前に人影が現れた。
それはかつて友人たちが話していた人物の姿だった。
「徳、私を覚えているか?」その声は、かつて友人であったが、数年前に不幸にも亡くなった女性のものだった。
徳は驚き、心臓が締め付けられるような感覚に襲われた。
彼女はにこやかな笑顔を浮かべているが、その目には何か恐ろしい真実が宿っているようだった。
「私の心の中にも、あなたたちとの思い出が残っている。でも、ここに来てしまったら、もう帰れない。」彼女の言葉は、まるで心に刺さる悪戯な針のようだった。
徳は、彼女が存在する意味を理解できずにいた。
「どうすれば帰れるのか?」と必死になったが、彼女は微笑み続け、彼の問いには無視するように、視線を逸らした。
目の前の景色が急に変わり、徳は彼女の手を掴んでいた。
しかし、その手は冷たく、力強く引き寄せようとするものの、徳の心は恐怖でいっぱいだった。
「離してくれ!」と叫んだが、声は虚しく響くばかりだった。
次の瞬間、彼は公園のベンチに戻っていた。
周囲は静まり返り、友人たちの姿はない。
暗闇だけが彼を包み込む。
気が付けば、頭の中には夢の中の彼女の笑顔がちらついていた。
「心を吸い取られたのか…」徳は恐怖を感じつつ、何か大事なものを失ったような喪失感に包まれた。
それ以来、徳は夢の中で彼女に何度も遭遇することになる。
毎回彼女は彼を呼び寄せ、無邪気な微笑みを浮かべながら巧みに彼を引き込んでいく。
「もう帰れないよ。」という言葉が耳に残り、現実でも彼の心が突き刺さるような不安から逃れることができなかった。
結局、徳はその村の伝説が本当に存在したことを理解する。
夢の中で彼女が言ったように、彼は彼女の心の一部を持っているのだ。
いつの日か再び彼女に会うのではないかという恐怖が、彼の心に暗い影を落とし続け、会うことが本当に運命づけられていたのかもしれない。