「影の友達」

マユは高校卒業を控えたある春の日、友人たちと共に思い出を作るため、郊外の廃校を訪れることを決めた。
この学校は長年使われておらず、地元では「心霊スポット」として有名だった。
興味本位で肝試しに行こうというノリだったが、その場所にまつわる噂について、真剣に話す者はいなかった。

学校はかすかな不気味さを漂わせていた。
扉は錆び付いていて、重たい音を立てて開いた。
教室の中は埃だらけで、机や椅子が乱雑に置かれている。
友人のユウジがカメラを取り出し、記念撮影を始めた。
「撮るよ、早くみんな集まって!」と彼は叫んだ。

マユは少し遠くにいる友人たちの笑顔を見つめ、彼らとの思い出を心に刻もうとした。
その瞬間、教室の窓から微かな光が差し込んできた。
しかし、その光は、次第に形を変え始め、まるで目の前で何かを写し出すかのような不気味さを感じた。
マユは不安を覚えたが、友人たちは楽しそうに騒いでいるので、そのまま様子を見ることにした。

「ほら、次は教室の机の上に乗ってこのポーズで撮ろう!」と、友人たちは提案した。
マユも負けじと参加し、机の上に登った。
ユウジが写真を撮ると、何かが背後の壁に写り込んだ。
マユは周りを見回したが、誰も気づいていないようだった。
拍子抜けする感覚と、明らかに不気味な気配が交錯した。

その夜、マユは自宅でユウジから送られた写真を見返していた。
楽しそうに笑っている自分の横に、謎の影が映っていることに気づいた。
影は人のようでありながら、どこか異様に歪んで見えた。
「これ、変じゃない?」と友人たちに尋ねてみたが、誰も気に留めなかった。
むしろ、「お前が心配しすぎだろ」と笑われた。

日が経つにつれ、マユは影のことを忘れられなくなった。
そして、友人たちとの間に次第に不穏な空気が漂うようになった。
何かがおかしい、と彼女は感じていた。
ある晩、ユウジから電話がかかり、「お前、あの写真見たか?」と不安そうに聞かれた。
もちろん、彼も影を気にしているらしかった。

「本当に気持ち悪いから、みんなで話し合おう」と、再度彼女たちは集まることにした。
久しぶりに顔を合わせた彼らの顔に暗い影が落ちているのを感じた。
その夜のことは思い出したくないが、確かに彼らの会話の中には一種の緊張感があった。

「写真を見た後、夢で見知らぬ人と会った」と一人の友人が語った。
次にまた別の友人が、「その人、すごく目が冷たくて、抜け殻みたいな表情だった」と続けた。
マユは自分が見た影とも重なるように思えた。

その後も次々と友人たちが奇妙な現象に悩まされるようになっていった。
誰かが解決策を見つけなければならない。
すると、ある日、彼女たちは廃校の噂を耳にした。
「その場所に写った者は、影に取り憑かれる」という恐ろしい伝説があったのだ。

マユは、影の正体を知りたいと決意し、友人たちと一緒に廃校へ再訪することにした。
「これが最後の挑戦だ」と誓い合った。
しかし、教室に入った瞬間、全員の心に重苦しい空気が立ち込めた。
再び背後の壁に影が浮かび上がり、今度はもっとはっきりとした形で彼らを見つめていた。

恐れにかられたマユは、友人たちを引き連れて逃げ出そうとした。
しかし背後から何かが呼びかける。
「友よ、逃げられぬ。私の一部になれ」と、その声が響いた。
彼女の心の中で、友達を失いたくないという感情と、助けられないかもしれない恐怖が渦巻いていた。

結局、マユは友人たちを守ろうと、影に近づいていった。
そして「来て欲しくない。消えて!」と叫んだが、影は微笑むばかりだった。
「あなた達の友情は、この瞬間から永遠のものとなる。」その言葉と同時に、彼女は気を失ってしまった。

目が覚めると、周りは誰もいなかった。
ただ静寂が広がるのみ。
記憶の中に残っているのは、笑顔の友人たちの姿と、暗い影の影だけだった。
それ以来、彼女は友人を奪われたことを背負いながらも、影に取り込まれる運命を受け入れたのだった。
彼女の心の中には、今でも友たちとの思い出が生き続けているが、もう彼らとは二度と会えないのだった。

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