地神の怒り

山深い森の中、踏み入れる者の少ない静寂な場所に、古い神社がひっそりと佇んでいた。
その神社には、土地にまつわる地神が祀られており、地元の人々にとっては神聖な存在であった。
だが、そこには語り継がれる恐ろしい噂もあった。
人々は「地神の犠牲を求む」という言葉を耳にしたことがある。
もし山を侵し、地神を怒らせた場合、犠牲を払わなければならないというのだ。

ある秋の夜、若者たちが集まり、この神社を訪れることにした。
その中には、タクミやサトコ、ユウジの三人がいた。
彼らは心霊スポットとして名高いこの場所に、真相を確かめるために足を運んでいた。
彼女たちのうわさは聞いたことがあったが、その真実に触れたくてたまらない気持ちを抑えきれずにいた。

「どうする? 夜も更けてきたし、帰ったほうがいいんじゃない?」とサトコが不安げに言った。
しかし、タクミは「もう少し待とうよ。何も起こらないかもしれないじゃないか」と淡々と答えた。
彼は自分の知識を興じるように、実際の怪談の話を始めた。
周囲にはただ風の音と、葉の rustling だけが響いていた。

その時、ユウジが社の中を覗き込み、何かを見つけた。
「おい、ここに古いお守りがある! これ、地神のものか?」と声を上げた。
タクミとサトコも興味を持ち、社の中に踏み入った。
しかし、そこには一つの異様な光景が広がっていた。

社の奥には、小さな祭壇があり、そこには昔の人々が刻んだと思われる地神の姿があった。
その周囲には、たくさんの供物や古ぼけたお守りが散乱していた。
不気味な雰囲気に、彼らは背筋を凍らせる思いだった。

「これ、もう利用されていないものじゃないかな。こんなにも邪魔してるなら、ちゃんと土に還してあげたほうがいいのかも」とタクミが言った。
その瞬間、サトコの目が鋭く光った。
「それでも、地神は振り回されているかもしれないわ。本当に怒りを買いたくないなら、持って帰るべきだよ。」

一瞬の静寂の後、周囲が急に静まり返った。
ユウジは不安で顔が青ざめ、「どうしよう、俺は帰りたい」と口をついて出た。
「大丈夫、少しだけ様子を見る分には問題ないよ」とタクミが言ったが、心の奥底で何か違和感を感じていた。

その時、突然、地面が揺れ始めた。
目の前に現れたのは、地神の影だった。
その巨体はゆっくりと立ち上がり、今にも彼らに向かって進み出るかのように見えた。
サトコは恐怖のあまり、うつむいて目をそらした。
「これは地神の怒りかもしれない…私たち、何も悪いことをしていないのに!」と叫んだ。

一瞬にして、夢中で逃げ回ることになったように、彼らは混乱の中で神社を後にした。
しかし、ユウジは一足先に逃げようとした結果、自分だけ後ろに取り残されてしまった。
地神の影に気づき、逃げ出すユウジ。
その姿を見て、タクミは思わず手を差し伸べたが、感覚は空振りをした。

その後、何かがユウジの背後から彼に迫るように感じた。
彼が後ろを振り返ると、すぐそこに地神の姿が迫ってきていた。
恐怖は底知れないもので、彼の心に突き刺さった。
彼はついに足をもつれて、地面へと倒れ込んだ。

次の瞬間、全てが静けさに包まれた。
ユウジが姿を消してから、タクミとサトコは逃げることだけを考え、山を下りた。

二人が街へ辿り着いた後も、ユウジの行方は分からなかった。
友人を失った痛みを抱いたまま、タクミたちは山を振り返ることができなかった。
心の中には「地神の犠牲」だけが残った。
彼らは、二度とその神社へ近づくことはなかった。

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