「裂けた声の家」

敷地の端に佇む古い家。
そこには誰も住んでいないとは言われていたが、訪れる者がいないだけで、実際には何かが住んでいるのかもしれない。
越してきたばかりの若いカップルが、好奇心を抱きながらその家に近づいた。
特に女性の方は、怪談やオカルトに興味を持つタイプで、過去に数々の心霊体験を語り聞かせていた。
それに対し、男性はどちらかというと懐疑的であり、そんな彼女をからかうことが日常だった。

ある晩、彼女はその家を訪れようと提案した。
男は最初こそ渋っていたものの、彼女の熱意に押され、ついに了解した。
彼女は心からワクワクし、それが嬉しさと緊張感を同時に引き起こした。

家に近づくと、外観はとても古びていて、苔が生えた壁面は神秘的であった。
彼女の目は輝き、興奮するあまり微笑を浮かべていた。
一方、彼は少しばかり不安を感じていたが、彼女の期待を裏切りたくない気持ちが勝った。

2人が家の中に足を踏み入れると、そこには埃まみれの家具が残っていた。
時間が止まったかのように静まり返った室内。
彼女はその場所での体験を話し始めたが、彼は自分が恐れを抱いていることを悟られまいと努めた。
何かの気配を感じることがあったが、声を大にして否定した。

彼らが奥の部屋に進むと、いきなり寒さが増した。
彼女はその冷気にゾクゾクした感覚を覚えた。
それを察知した彼は、「そんな気にすることはないよ、ただ古い家なだけだ」と彼女を励まそうとした。
その時、彼女が言った。
「ねぇ、この家、何か語りかけてきているみたいじゃない? まるで、私たちを何かに誘おうとしているみたい。」

それを聞いて、男はふと嫌な予感を抱き始めた。
しかし、彼女は廊下を歩きながら、何かの声を探し求めていた。
すると、薄暗い角から奇妙な声が聞こえた。
「帰れ…帰れ…」その声はまるで何かに苦しむかのように響いていた。

彼女はその声に引き寄せられ、顔色を失って立ちすくんだ。
男もその声に気づき、彼女の手を掴んだ。
「もう帰ろう、これは危険だ。」

だが、彼女はその声の主が何かを求めているように感じ、その場所に留まろうとした。
再び声が響く。
「助けて…助けて…」彼女の耳元でさえも、その声が直接聞こえた。
彼女は恐怖を抱えながらも、その声に惹かれていく。

男は彼女を引き戻そうと必死に手を引っ張ったが、彼女は全く動かない。
力を込めながら「行こう!」と怒鳴った瞬間、彼女の顔に恐ろしい影が映った。
「あなたに、何もわからない…。私にはこれが必要なの。」

その瞬間、男は心の奥底に強い恐怖を感じた。
彼女は再びその家に魅入られているのではないか。
すぐに振り返り、家の出口へ向かう道を探った。
しかし、出口はどんどん遠ざかっていく。
彼は振り返り、彼女の目がどれほど怨念に満ちているかを見て、背筋が凍りつく思いをした。

「魅零、戻ってきて!」螺旋状に二人は迷い続ける。
再び、声が響く。
「ここから出ることはできない…」その言葉が耳にこびりつき、彼は全てが夢だったと願うしかなかった。

やがて二人は廊下を行きつ戻りつした結果、どちらも出口を見失い、冷たい手に導かれたまま、「ここはもうあなたたちの世界ではない…」という言葉だけが静寂に響き続けるのだった。

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