「影の映写室」

彼女の名前は麻衣。
大学に通う普通の学生で、友人たちと過ごす日常が彼女の全てだった。
そんなある日、友人の真一が提案した。
彼曰く、大学の裏手にある古い廃墟に、奇妙な噂があるという。
そこでは、映し出されたものが生きているかのように動き出し、時にはその影から誰かが覗いていることがある、と。
興味本位で麻衣と友人たちは、その廃墟に行くことを決めた。

廃墟に着くと、周囲を囲む古びた木々が不気味に揺れている。
薄暗く、風が冷たく感じられた。
麻衣は友人たちと一緒に廃墟の中に足を踏み入れた。
朽ちた床板のきしむ音に心臓が高鳴る。
彼女は不安を抱えながらも、皆と一緒に行動することに安心感を覚えた。

部屋の一つに入ると、壁には古い映画のポスターが貼られていた。
それは、かつてここで上映された作品のもので、今は名も知らぬ怪物たちが描かれていた。
「この映画、見たことがある!」真一が声を上げた。
その瞬間、薄暗い部屋の中に、古い映写機が目を引いた。
何かが動く音がしたかと思うと、映写機が独りでに動き始め、白いスクリーンに映像が映し出された。

それは、麻衣たちの顔だった。
驚きと共に、彼女たちは息を飲んだ。
映し出される映像の中で、彼ら自身が何かを見つめている姿があり、背後には誰かの影が映り込んでいる。
それはなぜか麻衣をじっと見つめていた。
彼女は恐怖を感じた。
「これ…どういうこと?」と麻衣は低い声で言った。

徐々に映像は変化していく。
画面に映し出されたその影が、次第に麻衣の方に近づいてきた。
どうにも逃げ場がない彼女は、友人たちに目を向けたが、彼らもその映像に釘付けになっていた。
「これ、本当に気味が悪い…」そんな言葉を発するも、他の誰もが興味津々に映像を見続けている。

麻衣の目の前で、影が成長し、奇妙な形を持つ人影になった。
それは彼女の名前を呼ぶかのように唸り始め、口元が歪んでいく。
「お前の名前を呼んでいる…」彼女の心に不安が広がった。
目の前の映像の中で、影はさらに近寄り、彼女自身の姿を真似るように動き出したのだ。

「もうやめよう!」麻衣の叫びが響いたが、声は誰にも届かない。
見つめる友人たちの表情は、次第に恐怖に変わっていく。
「私たちを助けて!」と影が叫ぶ、その瞬間、周囲の空気が変わった。
薄暗い部屋は、不気味な静寂に包まれ、すべてが止まった。

「逃げよう!」麻衣は声を振り絞り、友人たちを引っ張って外へ向かった。
しかし、足元がぐらつき、影が彼女を掴もうとしているかのように感じた。
暗闇に覆われたその場を振り返ると、影が彼女を見つめる目のように感じた。

外へ出た瞬間、冷たい風に包まれ、彼女はようやく息を吐いた。
しかし、周囲を見回しても、友人たちがいない。
彼女は冷静さを失い、慌てて呼びかけた。
「真一!恵美!どこにいるの?」彼女の声は虚しく響く。

麻衣は思わず足元に目をやると、そこには一枚の古びた映画のチケットが落ちていた。
その一瞬、映写機の音が耳元に聞こえ、背後で誰かが微笑んでいるような感覚に襲われた。
「お前たちの名前を呼んでいる…」その声が今も心の奥で響いている。

廃墟から逃げ出したはずの麻衣は、影から解放されることはなかった。
恐怖の中で、彼女はただ一人、その影の記憶に囚われたまま、孤独な夜が始まった。
やがて誰もその話を信じることはなくなり、廃墟は忘れ去られていく。
しかし麻衣の心の中には、今もなお、あの影が息づいているのだ。

タイトルとURLをコピーしました