静かな山里の村、月夜の晩。
人々は日々の雑事を終え、束の間の安らぎを求めて家々に入る。
村の中央には古びた大きな木が聳え立ち、その木は何世代もの間、村人たちを見守ってきた。
だが、誰もその木の秘めた恐ろしい噂を知る由もなかった。
ある晩、村の若者である健太が、友人たちと一緒に木の下で夜遅くまで酒を酌み交わしていた。
彼らは明るく笑いあい、賑やかな声が暗闇を賑わせていた。
しかし、しばらくすると、友達の一人、翔が恐ろしい話を持ち出した。
「この木には、昔、村を守っていた神様が宿っていると言われてるけど、時にはそれが怒ることもある。特に、酒を飲んで騒ぐ夜には、注意が必要だって」
初めは冗談だと思っていたが、翔が語る言葉の一つ一つに、村の古老たちが昔から伝えていた警告の影がうっすらと見え隠れし始めた。
他の友人たちもギョッとした顔をしはじめ、冗談のつもりが気分が悪くなってきた。
そんな彼らの様子を見て、健太は笑い飛ばした。
「お前ら、マジで恐れてるの?ただの木だろ?ほら、一緒に歌おうぜ!」
そんな健太の言葉に、彼らは再び笑い声をあげた。
しかし、急に突風が吹き始めた。
それはただの秋の風とは思えないほど強く、まるで木が何かを訴えかけているかのようだった。
風が葉を揺らすたびに、木の周りの空気が異様に重く感じられる。
突風の中、突然、木の枝から一際大きな音がした。
カランと何かが落ちるような音。
彼らはその音に驚き、互いに顔を見合わせた。
「あれ、何だ?」健太が口にした瞬間。
突如、木の根元に黒い影が現れた。
その影は不気味にうねり、まるで生きているように動いていた。
「見て!あれ、なんだ!」翔が涙目で指をさす。
全員が恐怖に駆られ、その影から目を逸らすことができなかった。
その瞬間、影が音も無く健太に向かって突進した。
彼は自らの行動が制御できず、動けなかった。
力強い手が彼の脚に触れた瞬間、冷たい感触に健太は体が震え上がり、悲鳴を上げた。
「逃げろ!逃げろ!」仲間の声が混乱を呼び起こす。
しかし、影の力にほとんど無抵抗の健太は、友人たちが逃げる中、ただその場に立ち尽くしていた。
目の前に現れたのは、顔の無い人の姿。
大きな木の根に絡まり、まるでその一部であるかのように。
「助けて!」そう叫びながらも、彼の声は空に消えていった。
冷たい影が彼の全身を包み込み、心の中に恐怖が渦巻いていく。
「やめろ、やめてくれ!」しかし、その声は誰にも届かなかった。
その時、健太の心の奥に神の怒りが宿るように感じた。
彼は急に思い出した。
村の人々が語っていた神様の話を。
酒を飲んで騒いではいけない、木の神を侮ってはいけないと。
今、彼はその教訓を深く理解した。
意を決して健太は
“この村のために、私は屈しない!”と心の中で叫んだ。
その瞬間、不思議と力が湧き上がり、影を振りほどくように身を強く振った。
影は驚いたように離れ、彼の視界から消えた。
健太は必死に走り、村へ帰ることができた。
後ろにはもはや影の姿はなかった。
しかし、友人たちは彼を見つけ、驚きの表情を浮かべる。
健太の顔は真っ青で、目には恐怖の影が色濃く残っていた。
それからというもの、彼は村の中央の木に近づくことはなかった。
彼の胸には、その晩の記憶が深く刻まれ、木を見るたびに心の奥に恐れを抱くことになる。
そして、村人たちの間にその話が広まり、木には決して触れない、近寄らないという教訓が今も語り継がれている。