一つの村に小さな道が続いていた。
その道は、村人たちにとって重要な生活の道であったが、同時に不気味な場所でもあった。
特に暗くなると、誰もその道を歩きたがらなかった。
その村には、悠太という青年がいた。
彼は気の優しい性格で、周囲の人々から好かれていた。
しかし、彼には一つだけ恐れていることがあった。
それは、いつからか村の道に現れるという「手」の噂だった。
ある夜、悠太は友人たちと一緒に夜の村を歩いていると、彼らの間でその「手」の話題が持ち上がった。
「あの道には近寄らない方がいい。聞いたことがあるだろう、手が出てきて引きずり込まれるって」と、友人の翔が語る。
みんなが笑いながらも、どこか恐れている様子だった。
悠太はその噂を笑い飛ばしたが、心の奥にはわずかな不安が芽生えた。
一緒に遊んでいた友達が帰った後、彼は一人で道の方に向かうことにした。
興味本位で、その噂の真相を確かめてみたかったのだ。
真夜中、悠太は静まり返った道を歩いていた。
不気味な静寂が周囲を包み込み、月明かりだけが照らしていた。
すると、突然風が吹き荒れ、木々がざわざわと揺れた。
その瞬間、彼は何か異様な気配を感じた。
「まさか…」と、悠太は自分の心臓が高鳴るのを感じながら、ふと周囲を見回した。
そこに見えたのは、まるで影のように薄暗い手だった。
悠太は目を疑った。
雑草の中から、一本の白く痩せ細った手が伸びている。
その手は徐々に自分に向かって伸びてきた。
彼は恐怖を感じながらも、その場から動かない。
何かに魅了されているようで、逃げることができなかった。
手はさらに彼に近づき、指先が彼の足元に触れた。
冷たい感触が全身を冷やし、悠太はすぐに反応して逃げ出そうとした。
しかし、その瞬間、手は彼の足首を掴んだ。
悠太は必死にもがいたが、その手はしっかりと彼を引き止めていた。
彼の叫び声は夜の闇に響いたが、誰もそこに彼がいることに気づかなかった。
心の中で助けを求める声が響くが、そんなこととは無関係にその手は彼を引き込もうとしていた。
「助けて!誰か助けて!」そう叫びながら必死に道の端に向かおうとしたが、その手の力は強く、行動することができなかった。
恐怖と冷たい絞め付けで、彼の心は崩れそうになっていた。
その時、悠太は自分の心の奥に新たな決意を感じた。
「私は絶対に屈しない!」そう思い込み、彼は一気に身を振りほどいた。
手の力が一瞬ゆるんだ隙に、彼は道を駆け抜け、そのまま村まで逃げ帰った。
村に着いた瞬間、彼は振り返ったが、やはり道には何も見えなかった。
ただの静かな夜の道の一部に過ぎなかった。
その後、悠太はあの道には二度と近づかなかった。
しかし、友人たちには「手に掴まれた話」をしたものの、真実の恐怖を口にすることはなかった。
彼の中には「実際にあったこと」として、その体験が深く刻まれ、彼を一生離れることはなかったのだ。