時は春の終わり、桜の花が散り始めた頃、ある小さな町に住む高校生、佐藤直樹は、放課後の図書室で新しい作品を書こうと決意した。
彼は作家を夢見ており、日々思いついたアイデアをノートに書き留めていた。
しかし、最近何を書くべきか迷っており、インスピレーションを求めて図書室の大きな書棚へと足を運んだ。
その日、図書室はいつもより静かだった。
人影はまばらで、直樹は何か特別なことが起こる予感を感じた。
彼はまず、好きな作家の作品を探すことから始めたが、視線がふと、不気味さを感じる一冊の本に引き寄せられた。
それは古い背表紙の「折り紙の魔法」と題された本だった。
興味本位で手に取った彼は、ページをめくるごとに奇妙な不安感を覚えた。
本には、折り紙の折り方が詳細に描かれており、さらに不気味なことに、折ったものには「命を宿す」能力があるという説明が記されていた。
直樹はその内容が非現実的だと心の中で笑うが、心の奥底では興味が湧いてきた。
折り紙というシンプルなもので、人の命が影響を受けるなんて、何とも魅力的なストーリーではないか。
そのまま直樹は、図書室の片隅で折り紙を折り始めた。
最初は簡単な鶴の折り方を選び、真剣にその手順を追った。
彼が鶴を折ると、何か神秘的な空気が漂い始めた。
ふと、温かい風が彼の背中を撫でるように通り過ぎ、彼はその感覚に驚いて振り返った。
しかし、誰もいなかった。
気を取り直して、次に直樹は本に記載されている難易度の高い「命の折り紙」に挑戦することにした。
心を落ち着けながら、一枚の紙を目の前に置き、自分の意志を込めるように折り始めた。
その途中、紙は次第に彼の手の熱を吸収し、まるで生命を感じているようだった。
だが、折り終える直前、突然胸が締め付けられるような感覚が押し寄せてきた。
「命が宿り、決して忘れない」という激しい思念が頭をよぎった。
直樹はその言葉の意味を理解できずにいたが、恐れを感じながらもその折り紙を完成させるために力を振り絞った。
仕上げると、その折り紙は見た目が美しいだけでなく、誰も見たことのない優雅な姿をしていた。
しかし、直樹がそれを手に取った瞬間、周囲の空気が変わった。
書架の本が一瞬震え、次の瞬間、静寂の中に声が響き渡った。
「私を解放して…」
驚いた直樹は、目を見開いた。
声の主は彼が折り紙に込めた「命」だった。
驚きと恐怖で心臓が高鳴る。
彼は折り紙が他の人の命を影響することが現実だと直感した。
しかし、どうすることもできず、彼はその場から逃げ出したい衝動に駆られた。
校舎を出ると、春の空気を感じ、心が少し落ち着いた。
しかし、彼の手にはその折り紙がしっかりと握りしめられていた。
家に帰ると、彼はその不気味な汗をかいた紙をどうするべきか考えたが、直視することができなかった。
記憶はかすかに薄れていくが、心の中の不安が何かを警告しているようだった。
次の日、直樹は学校で異変に気づく。
いつも一緒にいた友人たちが次々と体調を崩し、欠席することになった。
「まさか、あの折り紙が…」と恐れが膨れ上がる。
彼はそれを誰にも話さず、心の中で葛藤した。
もし、本当に彼の折り紙が原因なら、自分で何とかしなくてはならない。
直樹は再び図書室に向かい、「折り紙の魔法」を元の場所に返そうと決意した。
返却の際、心のどこかで「あの命を折り返す」必要があると感じたからだ。
しかし、図書室の中は何も変わっていなかった。
しかし、彼の中には明確な覚悟があった。
その日が過ぎ、図書室の本が静かに眠る中、彼は薄暗い中で再び折り紙を解き始めた。
彼がその命を受け入れ、折り戻すことを決意した瞬間、体全体が震え、再び「解放して」という声がこだました。
暗闇の中で、直樹は自らの過ちを悔い、それを償う決意をした。
彼に宿った命は再び折り紙として綴られ、直樹はその思いを込め続けた。
それを成し遂げることで、彼は自分自身をも解放することができると信じたからだ。
暗い迷いの中、その折り紙はようやく、彼にとっての新たな命となった。