「病室の光」

夜が更け、街の喧騒が静まり返ると、ある病院の廊下には一人の霊が漂っていた。
彼女の名は、佐藤愛美。
彼女の体はかつて生きていた頃のものであり、今はただの魂となってこの世を彷徨っていた。
愛美は生前、過酷な病気と闘い、最後にはその病に屈してしまった。
彼女の心には深い後悔が宿り、特に「体」という存在がどれほど貴重だったかを痛感していた。

ある日、愛美は自分のかつて入院していた病室に戻ってきた。
そこには、最近入院している若い女性、鈴木美咲がいた。
美咲は愛美と同じ病気に苦しみ、日々の治療に耐えていた。
愛美は彼女の姿を見て、まるで自分自身を見ているかのような気分になった。
だが、時間が過ぎれば過ぎるほど、美咲の体はその病によって衰弱していく。
彼女のまっすぐな瞳が、弱々しくなっていく様子を愛美は心痛めて見守った。

美咲が静かに眠りにつく深夜、愛美は思い切って彼女に近づいた。
未練がましく、彼女の体に触れようと手を伸ばすと、突然、冷たい感触が伝わってきた。
自分の透明な手。
しかしその瞬間、愛美はしっかりとした現象を目の当たりにした。
それは、美咲の体の中に微かな光が宿っていることに気づいたのだ。
まるで彼女の体が内部で割れ、何かが外へと出ようとしているかのようだった。

その光を見た愛美は、恐れと興味が交錯した。
そこには、美咲の健康な部分と病に侵された部分が共存している。
愛美は、彼女が無事に回復することを願いながら、その光が何を意味しているのかを知りたくなった。
彼女は心の中で、囁くように美咲に訴えかけた。
「私の気持ちを感じて」と。
しかし、その声は届くことはなかった。

美咲の病状はますます悪化し、医療スタッフはあらゆる手を尽くしても救うことができなかった。
美咲はしばしば悪夢にうなされるようになり、その中で愛美の姿を見て「助けて」と叫んでいた。
愛美は彼女の言葉を聞き、涙を流した。
美咲は自身の苦しみに対抗するために、無意識にその声を使って彼女を求めていたのだ。

ある晩、病室の明かりが不自然に点滅し始め、美咲は目を覚ました。
周囲は薄暗く、どこからともなく声が聞こえてくる。
「この体を取り戻そう」と愛美は叫んだ。
美咲はその声の正体に気づく。
愛美の姿がかすかに見える。
それは彼女の願いだった。
「私はあなたに助けを求めている」と言わんばかりに。

愛美は自らの力では美咲の体を癒せないことを理解しつつ、彼女に寄り添い続けた。
美咲が苦しむたびに、愛美もまたその痛みを分かち合う。
やがて、美咲の体で起こった現象は、病に侵された部分が徐々に割れていくように見えた。
彼女の体の中から、病気が抜け出そうとしているかのようだった。

ついに美咲は、愛美の存在を通じて「生きる」という願いを再確認することができた。
彼女の意志と愛美の想いが重なり、その瞬間、美咲の体は光に包まれた。
病が割れ、取り除かれていく過程は、まるで二人を結ぶ強い絆によって実現されたようだった。

そして、病室が静寂に包まれる中、美咲は心強い感覚を抱きながら目を閉じることができた。
その夜、彼女はぐっすりと眠りについた。
そして朝を迎えた時、看護士たちはその姿を見て驚愕することとなった。
美咲は、奇跡的に意識を取り戻していた。
愛美は、彼女の心が以前よりも強いものであることを確認し、満足な気持ちを胸に、静かに病室を後にした。
彼女にはもう、恐れも後悔もなかった。
与えられた時間を大切にすることが、何よりも価値あることを知ったのだ。

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