小さな村、平村は、山々に囲まれた静かな場所で、住民たちは毎日同じような生活を送っていた。
村の中には「狛」と呼ばれる古い石像が立っており、村人たちはいつもその像をお守りとして崇めていた。
狛は、古の神々を象徴する存在として、村の平和を守る役割があると信じられていた。
しかし、最近、村に異変が起き始めた。
数年前に記憶をなくしたという青年、和樹が訪れたことで、村の空気が変わったのだ。
彼は平村に長期間滞在するようになり、次第に村人たちと親しくなった。
和樹は穏やかな性格で、特に子供たちには優しく接し、その様子から村人たちも彼を受け入れ始めていた。
しかし、和樹が村に訪れてから数ヶ月が経過した頃、村の周囲に不気味な「気」が漂うようになった。
村人たちは感じたことのない重苦しい空気の中で、次第に心に不安を抱えるようになっていった。
村の生産物も影響を受け、作物の生育が進まなかったり、病気が蔓延したりと、徐々に村の平和が崩れ始めていた。
ある晩、村の酒屋で行われた宴会の最中、和樹は村人たちに向かってこう言った。
「最近、狛が動いていると感じるのは私だけでしょうか?何か異常な気を感じます。」その言葉に、村人たちはざわつき始めた。
狛が動くはずがないと思いながらも、その影響を受けたような恐怖感が会場を包み込んだ。
次の日、村の中で奇妙な現象が続いた。
夜になると空気が重く、狛の周辺ではさまざまな音が聞こえるようになった。
小動物たちが消える現象も相次ぎ、人々は村を離れることを決意した。
しかし、和樹は村を離れないと言った。
「この村には何か大切なものがあるはずです。私がそれを解き明かします。」彼の言葉には確信があり、いつの間にか村人たちもその言葉に従うことに決めた。
みんなで狛を調べることになったが、彼らが近づくとともに、異様な空気が漂い、押し寄せるような圧迫感を感じた。
和樹が狛に触れた瞬間、周囲が激しく揺れ、黒い霧が立ち上った。
人々は恐怖に駆られ、後退したが、和樹は気を取り直して神社の奥に進んでいった。
いつしか、彼の目に映ったのは、狛とともに生きる古代の神々の影だった。
和樹は彼らに向かって問いかけた。
「あなたたちはなぜ、村を苦しめているのですか?」すると、神々の一人が言った。
「私たちは長い間、平和を守ってきたが、忘れ去られることに苦痛を感じている。今こそ、再びこの地で私たちの存在を認識してほしい。」
和樹はその言葉に強い感情を抱いた。
「私は何も知りませんでした。あなたたちの存在を忘れていた私が、村にとっての害だったのですね。どうか、この村に平和を戻してください。」和樹の心の中で何かが変わり、彼の言葉は神々に届いた。
その瞬間、狛が輝きを放ち、次第に村の空気が澄んでいくのが分かった。
和樹は神々の願いに応え、村人たちを導く存在となることを決意した。
村の人々は、今まで以上に狛を大切にすることにし、彼らは賢者としての役割を果たした。
平和は戻り、村人たちの心もまた、狛とともに新たに生まれ変わった。