ある静かな山の中、村の人々は代々「目の山」と呼ばれる場所を恐れていた。
この山には、夜になると山の中で奇妙な目が光るという伝説があった。
その目は、単なる視線ではなく、何かを見つめているようだった。
村人たちは、山に入ってはいけないと口を揃えて言い伝えていた。
そんな村に住む佐々木健太は、好奇心旺盛な青年だった。
彼は友人たちと一緒に週末のハイキングを計画し、少々の冒険を求めてこの「目の山」に挑むことになった。
友人の中には、村で育った彼の幼馴染である鈴木美咲もいた。
美咲は村の言い伝えをとても信じており、山に行くことを強く反対していたが、健太はその意見を無視した。
「何もないに決まってるよ、ただの噂だろ。ほら、行こうよ、美咲」と健太が笑いながら言うと、彼女は不安そうに首を振った。
しかし、仲間たちの明るい声に押され、結局みんなで山へ向かうことになった。
山を登り始めると、最初は爽やかな風が吹き、木々の緑や小鳥のさえずりが心を和ませた。
しかし、次第に周囲は静まり返り、風も止まってしまった。
やがて、日が沈み、薄暗い空が広がる頃に、彼らは山頂に到達した。
そこで彼らは腰を下ろし、夕食をとることにした。
そのとき、一人の仲間が突然、鋭い目を光らせた。
「見て、あそこに何かがいる！」と指差した先には、暗闇の中で一対の目が光っているのが見えた。
まるで自分たちを見つめているかのようだった。
みんなは一瞬にして凍りつき、言葉を失った。
美咲は恐れおののきながら「ねぇ、戻ろうよ。これがあの伝説の……」と言ったが、健太は気を取り直し、仲間たちに「ただの動物だろう、気にする必要はない」と言った。
だが、彼も心のどこかで不安を抱いていた。
その瞬間、目が一際大きく輝き、周囲の暗闇にむせ返るような静寂が広がった。
みんなは立ち上がり、その場を離れようとしたが、どういうわけか足がすくんで動けなかった。
急に空気が重く感じられ、何か恐ろしいものが近づいてくるのを感じた。
「待って、みんな！」健太が叫ぶと、彼はとても釘付けにされたようにその目を見つめ続けていた。
目は、彼に何かを伝えようとしているかのようだった。
目から放たれる冷たい光が、まるで自分の中を覗き込んでいるかのような感覚を呼び起こした。
その時、鈴木美咲が「私たち、ここから離れよう！」と叫び、彼女がひらりと仲間を引っ張った。
その瞬間、健太は我に返り、目に向かって駆け出した。
「待って、美咲、ちょっと待って！」と叫んで追いかけた。
彼の心には、何かを学ばなければならないという強い思いがあった。
仲間たちはその目を見ながら逃げていったが、健太だけは立ち尽くし、目が光る中で一人の女性の姿を見た。
「あなたは誰？」と詰め寄ると、彼の心の中に生きる美しい声が響いた。
「私はこの山を守る者。言い伝えられてきたものには意味がある。あなたたちのような者に、私は警告しに来たのだ。」
その瞬間、健太は一気に恐怖が押し寄せてきた。
薄暗い山の中で、自身が何に向かおうとしているのか、何を失いかけているのかを実感した。
目は彼に恐れだけでなく、自分の存在を見つめ直す警告を残したのだった。
その後、仲間たちは健太を呼び寄せ、どうにか無事に村に帰ることができた。
しかし、彼の心には山と目の存在が深く刻まれており、決して忘れることはできなかった。
そして、それからというもの、健太は「目の山」を恐れ、二度と足を踏み入れることはなかった。
彼もまた、村人たちの中でその伝説を語り継ぐ者になったのだった。
