長い間、静まり返った村の一角に、長い間忘れ去られていた廃屋があった。
その屋敷には、かつて映画監督として名を馳せた加藤修司が住んでいたが、彼が不審な死を遂げたことから、村の人々はその屋敷を忌み嫌うようになった。
いまだに、彼の作品に対する熱い情熱は村人たちに語り継がれ、興味を惹いていたが、誰もがその屋敷には近寄ろうとはしなかった。
ある晩、大学生の健太が仲間たちと肝試しのために訪れた。
怖がりの友人たちを宥め、彼は思い切って屋敷の中に足を踏み入れることにした。
修司の死から数年が経ち、屋敷はひどく荒れ果てていたが、それでも尚、どこか彼の気配が残っているように感じられた。
健太は不気味さを感じながらも、好奇心が勝り、先へと進んだ。
屋敷の壁には、修司がかつて撮影した映画のポスターが飾られていた。
その中には不気味な表情をした女優の姿があった。
彼女の目はまるでこちらを見つめているようで、健太は思わず目を逸らした。
「この女は一体誰なんだろう?」彼は自分の中で疑問を抱きつつ、さらに奥へと進む。
その晩、仲間たちと別れた後、健太は不意に夢の中で彼女の姿を見た。
彼女は悲しげな表情で立っており、彼に向かって手を伸ばしていた。
「助けて…」彼女の声が耳に残り、彼は目覚めた。
どこか惹かれる思いと、恐怖が交錯する中、健太はもう一度夢の中で彼女を見つけることができるかもしれないという考えを持った。
数日後、健太は再び廃屋に向かった。
その日の夕方、彼はまた夢の中で彼女と再会した。
彼女は名前を告げた。
「私は玲子、修司の恋人だった。」彼女の話によると、修司は彼女に映画の中で生き続けることを願っていた。
しかし、彼女が亡くなることで、その夢は不完全なものになってしまった。
「私を解放してください。」玲子の切実な願いが健太の心に響いた。
彼はその日から、夢の中で彼女と何度も会うようになった。
毎晩のように、彼女は自分の姿を見せ、何かを訴えかけてくる。
玲子は、修司の未完成作品を完成させることで彼の想いを実現するように促した。
彼女の指示に従い、健太は映像を撮影し始めた。
彼は作業を進めていくうちに、次第に玲子の姿が明確になっていくのを感じた。
まるで彼女自身がそこにいるようで、彼女の存在が彼を支えてくれるかのようだった。
しかし、健太は途中で異変に気づく。
映像の中に、彼が知らないはずの台詞が現れ始めた。
それは玲子の言葉ではなかった。
「私を思い出して…」という不気味な声が響き渡り、映像に映る玲子の表情が次第に歪んでいく。
どういうわけか健太は恐れを抱きながらも、最後まで作品を完成させる道を選ぶことにした。
ある晩、部屋の中で仕上げを行っていると、突然、画面が真っ暗になり、誰かの喘ぎ声が後ろから聞こえた。
振り返ると、そこには修司の姿が立っていた。
彼の顔は苦痛に満ち、無言で健太を見つめていた。
「私の愛を、取り戻して…」その言葉が彼の耳にした瞬間、健太の心臓が高鳴る。
映像の世界が歪んでいき、何かが現れようとしていた。
彼は逃げようとしたが、その瞬間、玲子の声が響いた。
「私を解放して!」彼女の言葉に促され、健太は彼女を解放するための最終編集を敢行した。
ついに完成したその作品は、村の人々に上映されることとなり、彼女の物語は感動的なラストを迎えた。
その夜、健太はまた玲子の夢を見ることができた。
彼女は微笑んで「ありがとう」と言い、彼の前から消えていった。
修司も安らかな表情で消えてゆく。
そして、健太は深い安心感とともに過去を乗り越えたことを実感した。