山の奥深くにある小さな村は、昔から言い伝えられる恐ろしい伝説を抱えていた。
それは、月明かりの夜に、村の外れに住む「折りたたみ女」の存在についてである。
彼女は、折り紙を愛し、特にくしゃくしゃにした紙を好むと言われていた。
そして、彼女に目をつけられた者は、決して逃れることができないという話が村人の間で語り継がれていた。
主人公の裕樹は、若い頃からそんな伝説を信じることはなかったが、夜間の散歩を好み、月明かりの下での思索を楽しむ青年だった。
ある晩、月が特に美しい夜、裕樹は自然と村の外れに足を運んでいた。
そこで、彼は彼女の伝説を思い出し、少し興味を惹かれた。
悪戯心を抱えながらも、彼は静かに歩みを進めた。
村の外れに足を踏み入れた裕樹は、奇妙な静寂に包まれた。
周囲には何も音がなく、自然の気配が消えているかのようだった。
少し不気味な気持ちが胸をよぎりながらも、裕樹はそのまま進むことにした。
その時、ふと目の前に古びた小屋が現れた。
その小屋の窓には、薄暗い影がちらちらと動いているのが見えた。
好奇心に駆られた裕樹は、恐る恐る小屋に近づいた。
心臓が高鳴る中、彼は窓から中を覗いた。
すると、そこには一人の女性が、一心不乱に紙を折りたたんでいる姿があった。
その姿は、まさしく伝説の「折りたたみ女」だった。
彼女の髪は肩まで伸び、黒い衣を纏った姿はまるで生気を感じさせない。
裕樹は思わず息を飲み込んだ。
女性は、まるで彼を意識しているかのように、ゆっくりと紙を折り続けた。
そして、彼の意識が彼女の眼と交差した瞬間、彼の身体が硬直してしまった。
「来たのね、私を見に」と女性は静かな声で言った。
彼女の薄暗い瞳が裕樹をじっと見つめ、その瞬間、彼は彼女の中に潜む異なる力を感じ取った。
裕樹は動けなかった。
恐怖のあまり、彼の足はもう動かなくなっていた。
「あなたも私のようになりたいの?」と、彼女が言う。
裕樹はその言葉の意味を理解できずにいると、彼女はさらなる悪夢を引き起こした。
この世に存在する紙をすべて折りたたむという、彼女特有の儀式を始めたのだ。
その瞬間、周囲の空気が変わり、異様な力が彼を包み込んだ。
次の瞬間、裕樹は目の前の女性の背後に立っていた。
彼女が折りたたんだ紙の上に、自分の体が重なり合ったように感じた。
彼女の目を通じて見た景色は、彼の心を覆い尽くすように暗く、絶望的なものだった。
その瞬間、彼は完全に彼女と同化してしまったのだ。
周囲の空間は一変し、裕樹の心に悪が芽生え始めた。
彼自身も知らぬ間に、過去に村に住んでいた人々の影が彼に宿り、折りたたまれた存在として新たに誕生してしまった。
その時、彼は彼女と同じく、伝説の一部となってしまったのだった。
月が離れる夜、彼の身体は動かないまま、折り続けることにのみ専念した。
裕樹の心の中には、彼が求めていた自由は消え、ただ「折りたたみ女」としての余生を受け入れるしかなかった。
彼の影は村へ戻り、次の夜、また新たな通りすがりの者を狙って静かに待つことになるのだった。
夜ごと、彼はまた新たな存在を折り、巻き込む悪のサイクルを続けるのだ。