「影の中に潜む実」

田中直人は、実家の屋根裏に隠された古い日記を見つけることから物語は始まった。
彼は大学に通うために、故郷の小さな町に帰ってきた。
普段は静かな直人の性格も、思い出の詰まった実家に戻ったことに少しずつワクワクしていた。
ある晩、夕食後に屋根裏へと足を運ぶと、埃をかぶった古い木箱を見つけた。
その箱の中には、祖父の名前が入った日記があった。

日記を開くと、最初の数ページは祖父の日常や昔の出来事が記されていたが、徐々に異様な出来事が描かれ始めた。
「影が現れた」「光を求めてさまよう」などの不気味な表現が続き、次第に不安が募った。
祖父の最後の言葉にはこうあった。
「影は実体を持たぬが、心の奥に潜むものだ。」

直人は、その言葉を理解できないまま日記を読み進めた。
やがて日記は日付が途切れ、祖父が行った儀式や祈祷の記録に変わっていく。
日に日に彼の精神は不安定になり、祖父の記した内容に引きずられるように感じていった。

その晩、直人は寝室に戻り布団に潜り込んだ。
暗闇の中、彼は異様な気配に包まれる。
突然、金縛りにあったかのように動けなくなる。
暗い天井を見つめ続けると、ふと、天井の隅に何かがあることに気づく。
それは彼の影とは異なる、一回り大きい影だった。
「これが、あの日記に書かれていた影なのか?」直人は恐怖に震えた。

次の日、直人は日記をもう一度読み返すことにした。
もちろん、初めて読んだときの恐怖が背筋を凍らせる。
しかし、彼の中には「実を知ることこそが真実だ」との思いが芽生えていた。
彼は影について知るために、祖父が行っていたような儀式をやってみることにした。

儀式の準備をするため、廊下にあった箱を開けてみると、祖父の古い道具やお守りが出てきた。
直人は不安に駆られながらも、手元にあるものを使い、儀式を始めた。
彼は「影を呼び出す」と声に出して唱えたが、その時、再び体が動かなくなる。
今度は、彼の背後に冷たい息遣いを感じた。

「私は、あなたを呼びましたか?」直人は震えながら問いかけた。
影は彼の後ろから、低い声で「実に会いたかった」と囁いた。
その言葉に背筋が凍りつくと同時に、影が直人に近づいてきた。
彼は圧倒され、意識が飛びかけた。

影がさらに近づくと、直人の周りに冷気が漂い始めた。
「実はどこに?」その問いかけと共に、直人はふと気づいた。
影の奥に、祖父の姿が見えたのだ。
祖父は影を通して、彼に警告している。
それは、闇から逃れられないという恐怖だった。

直人は思い詰めた。
「影を消すにはどうすればいいのだ?」心の内に無限の疑問が渦巻く。
祖父の日記に戻り、最後のページに書かれた言葉を思い出す。
「影は自らの心が生み出したもの。贖いがなければ、いつまでも続く。」

そう気づいた瞬間、直人は力を振り絞り、自分の心の中の影を受け入れ、赦すことを決意した。
「私は恐ろしいと思っていたが、それは私自身の一部だ。」影は一瞬静まり返り、直人は自らの思いを訴えかけた。

その時、影が少しずつ薄まっていくのを感じた。
意識も戻り、冷たい息遣いは消えていった。
ただ直人は、心の中の影を理解することで、自分自身を解放することができたのだった。

儀式の後、直人は屋根裏での出来事を思い返し、日記をそっと閉じた。
祖父の影から解き放たれた今、彼は新たな未来に向けて歩き出すことができた。
影はもはや、彼の心の奥に潜むものではなく、彼自身の一部として受け入れられたのであった。

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