舞台は、静けさが漂う田舎の村にある古びた一軒家。
長い間、誰も住んでいないこの家には、恐ろしい噂が囁かれていた。
それは、無残に消えた人々の影が家の壁に現れるというもので、過去に多くの家族がその家に住んでは姿を消してしまったという。
恐れられ、誰も近寄らないその場所に、ある青年、健二が入る決意をした。
健二は、興味本位でその家を探検することにした。
古びた木の扉を開けると、埃だらけの廊下が目の前に広がっていた。
暗闇の中、足音を立てないように進んでいく。
心の中には、恐怖よりも探求心が勝っていた。
彼はこの家に何が隠されているのか、自らの目で確かめたかった。
家の中は静まり返り、彼はまるで時間が止まったかのような感覚を覚えた。
廊下の両側には古びた壁があり、ところどころ剥がれ落ちている。
ふと、壁に目をやると、そこには人の形のような影が浮かび上がっていることに気づいた。
驚いた彼は思わず後退り、「ただの影だろう」と自分に言い聞かせながら、再び前に進む。
それでも、影は彼の目を離さなかった。
健二は、家の奥へと進んでいくにつれ、その影が徐々に自身の心に影響を与え始めていることを感じた。
まるで、彼自身がその影の一部になってしまうような感覚だった。
彼は不安になり、「この家には何かがある」と確信した。
しかし、壁の影はさらに変化していく。
影の姿が次第に鮮明になり、まるで誰かが助けを求めているかのような表情を浮かべ始めた。
その時、健二は恐怖に駆られ、一瞬足がすくんだ。
すると、影は急に大きくなり、彼の目の前で壁から突き出るような形になった。
「助けて…」と、彼に向かって手を伸ばすその影は、かつてこの家に住んでいた者たちの姿そのものであった。
彼は逃げ出そうと振り返った。
しかし、逃げようとした瞬間、体が動かなくなってしまった。
驚きと恐怖のあまり、心臓が高鳴る。
すると、影は一瞬で彼の頬に触れ、「消えたい…」と囁いた。
その声は力を失ったかのように弱々しく、健二の心の奥に深く突き刺さった。
その瞬間、彼の視界は急に暗くなり、自身がその家の一部になってしまったような感覚に襲われた。
彼の体は壁に吸い込まれ、まるで部分的に消えていくかのようだった。
手を伸ばしても、空気しか掴むことができない。
体の感覚が薄れていくにつれ、彼は過去にこの家に住んでいた者たちの苦しみや後悔が自分の心に流れ込んでくるのを感じた。
健二は、自分が彼らと同じ運命を辿るのではないかと恐れ始めた。
「この家から抜け出さなければ、消えてしまう…」心の中で必死に叫んだが、声は届かない。
影たちの思いはますます濃厚になり、彼自身の存在感が徐々に薄れていく。
次第に彼は、何も感じない体になっていく。
気が付くと、健二はもはや自分を意識することすらできなくなっていた。
その瞬間、全てが消えた。
静まり返った古びた一軒家に、ただ壁に浮かび上がる影だけが残った。
それは過去の住人たちが助けを求める姿であり、次なる存在を待ち続ける影だった。
夜が深まるほど、彼らの願いは強まっていった。
次にその影に取り込まれるのは、健二のような興味本位の者たちだろう。