夕暮れ時、静まり返った街の片隅にある神社の境内。
そこには、かつて多くの人々が集まり、願いを込めて鳥を捧げていたという伝説があった。
しかし今では誰も訪れない場所となり、風の音とともに薄暗い影が漂っていた。
ある日、学生の田中健一は、友人と肝試しに神社を訪れた。
笑い声を上げながら境内に足を踏み入れるも、次第にそれは不穏な雰囲気に包まれていった。
健一は、友人たちが楽しむ姿を笑顔で見つめていたが、心の奥に引っかかるものを感じていた。
在りし日の神社には、かつて生け贄として捧げられた鳥たちの魂が宿っているという噂もあった。
恐れすら感じさせるその言い伝えを思い出しながら、彼は不安を抱えつつも、他の友人たちに付き合った。
その夜、月明かりの中、健一たちが神社の奥へと進むと、突然、空が暗くなり、異常な寒気が襲った。
周囲の木々がざわめき、何かが近づいている気配を感じさせていた。
友人の一人が「きっと風だよ」と言ったが、健一は自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。
「そこで何か動いてる…」密かに思いつつ、彼は皆を引き留めた。
しかし、見た目には何もない。
ただ、何かが彼らを見ているという感覚だけが脳裏に焼き付いていた。
声をかけようとした瞬間、 eerieな低いうめき声が木々から響いた。
「助けて…」という声だった。
友人たちは恐怖から一斉に逃げ出したが、健一は足が動かず、その場に立ち尽くしていた。
目の前には、羽がない不気味な何かが現れた。
それは、かつて捧げられた鳥の霊であろう。
姿形を持たないそれは、ただ暗闇を漂うだけで、どこか哀しげで、憎しみすら感じさせた。
彼はその時、恐怖で圧倒され、何が起こっていたのか理解できなかった。
生物としての本能が逃げろと叫ぶ。
しかし足は動かない。
鳥の霊はゆっくりと近づき、彼の耳元で「消えてしまいたい…」と囁いた。
まるで彼自身がその言葉を聞き取るはずの霊との共振を感じた。
その瞬間、空間が歪む感覚が彼を襲った。
まるで別の次元に引きずり込まれるような不快感。
健一はその場所で、何度も救いの叫びをあげようとしたが、どんな声も外に聞こえなかった。
彼はその神社に一緒に来た仲間たちとはまったく異なる世界にいることに気づいた。
彼はそこに留め置かれ、不安に押し潰されていく。
やがて、彼の視界は次第に薄れていき、意識が遠のいていった。
周囲の景色が霞み始め、彼は「これは夢だ」と自らに言い聞かせた。
しかしその夢が現実であることを知るには時間が足りなかった。
そのまま時が過ぎ去った後の町では、元気に遊んでいた友人たちの姿は見えなくなり、ただまるで忘れ去られたかのような神社だけが寂しく佇んでいた。
誰もいない境内の周囲には、時折、羽のない鳥の鳴き声が響くという。
人々は、その声を聞きながら神社の境内を通り過ぎるとき、何やらブルブルと震えた空気の中、目をそらすのであった。
