かつて、小さな村の外れにある「た」と名付けられた荒れ地があった。
その地は古くから忌まわしい場所とされ、村人たちは近づくこともなかった。
人々の語る話によれば、そこで奇怪な現象が起きることがあるという。
特に、夜が深くなると、まるで誰かの足音が聞こえるかのように、さまざまな声が村の方へと響いていた。
ある日、若い男性、佐藤健二は村の言い伝えに興味を持ち、荒れ地を訪れた。
彼は周囲を探索するために、決意を固めて出発した。
「これを機に、真相を確かめてやる。」と彼は心に決めていた。
暗い夜の帳が降りる中、健二は懐中電灯を手に、草が生い茂る荒れ地の中を進んでいった。
その荒れ地は、村人たちが語る通り、異様な静けさに包まれていた。
しかし、彼が中心部に近づくにつれ、空気が次第に重くなっていくのを感じた。
突然、耳元でささやくような声が響いた。
「帰ってきて…」それはまるで誰かが彼に呼びかけているかのようだった。
驚き、足を止めた健二は、心臓が高鳴るのを感じる。
恐怖心で引き返そうとした瞬間、周囲が急に地下のような暗闇に包まれ、懐中電灯の光ですら届かない闇が迫ってきた。
彼は急いで周囲を見回したが、何も見えない。
しばらくすると、また耳元で声が聞こえた。
「決めろ…選べ…」それは、暗い空間から響いてくる何かの呼びかけだった。
「選ぶって、何を？」と健二は思わず問いかけた。
音が静まり返り、彼の呼びかけは返事を待つように空気中に漂っていた。
すると、視界の片隅に人影が見えた。
まるで影のような、動くものが一瞬見えた。
おそるおそる近づいてみると、それは、一人の女性の姿だった。
彼女は白い服を着ており、無表情でこちらを見つめていた。
彼女の目は、生気がなく、まるで底なしの闇を抱えているかのようだった。
「私と一緒に帰ってきて…」と彼女は言った。
健二はその言葉に引き込まれそうになったが、彼の心には恐怖が広がり、後ずさりした。
彼は「私は帰らない！」と叫んだ。
その瞬間、彼女は消え、周囲の空気が一変した。
突如、健二はその場から逃げ出した。
彼は「帰らなければ！」と思いながら必死で足を動かした。
目の前の景色は、さっきまでの荒れ地から、村への道に変わることなく流れ続けていた。
しかし、彼が振り向くと、背後には再びあの女性が立っていて、冷たい目で健二を見つめていた。
「決めるのはあなたよ…」彼女の声が響く。
健二は必死に走り続け、どうにか村への道を見つけた。
彼は村の境界線を越え、その瞬間、急に静寂に包まれ、暗闇から解放されたように感じた。
あの場所から逃れられたと思った瞬間、胸の高鳴りが収まらなかった。
しかし、振り返れば荒れ地には何もなかった。
しかし、その晩、健二は夢の中で再び女性の姿を見た。
彼女が微笑んで近づいてきて、「あなたは私のところに戻ってくる運命だ」と言った。
その言葉が胸に響く。
目を覚ました健二は、再び不安に襲われる。
彼は一度あの場所を訪れたが、今度は彼女の声がしっかりと心に残ってしまった。
それからというもの、彼の周りには不思議な現象が起き始めた。
友人たちから、「君は何かに取り憑かれている」と言われるようになり、彼自身もその言葉が真実かもしれないと感じるようになった。
いつしか、彼は「帰るべきか、帰らざるべきか」と悩むようになり、夜ごと再び声が聞こえる。
その声に応じることだけが、彼にとっての生きる道なのかもしれないと感じつつ、彼はそっと夜空を見上げた。
運命の糸が、彼を再びあの荒れ地へと導くのを感じたのだった。
