「狼の手に誘われて」

辺境の村には、誰も近寄らぬ森が広がっていた。
そこには一頭の巨大な狼が住んでいると言い伝えられていた。
彼の名はカラ。
人々は彼を恐れ、小さな子どもたちは、「カラが来るぞ!」と仲間同士でからかい合っていたが、心のどこかに恐怖を隠し持っていた。

村の北側には、特異な現象が起こるとされる小道があり、そこを通る者は決して戻らないという噂が立っていた。
杖を片手にした老人がそれを語ると、若者たちは笑って聞き流し、挑戦しようと歩みを進めた。
しかし、誰もがその道を選ぶことはなく、結局その存在はただの言い伝えとして定着していった。

ある晩、村の一人の男、名をセイだが、彼は自らの好奇心に駆られ、その小道へと向かった。
彼は常日頃から、伝説の狼に興味を抱いていたからだ。
村人たちが語る恐ろしい話が本当であれば、彼はその目で見てみたいと願った。

小道に足を踏み入れたセイは、薄暗い森の中を静かに進んだ。
周囲は静まり返り、ただ彼の足音だけが響いていた。
だが、次第に不気味な感覚が彼を包み、背筋に寒気が走る。
彼は何かが近くにいると感じ、それが狼だと本能的に気づいた。

その時、セイの目の前に大きな影が現れた。
暗がりの中に浮かび上がったのは、天をも覆うほどの大きなカラだった。
狼は静かに彼を見つめ、目は無邪気ながらも獲物を狙うような鋭い光を放っていた。
セイは恐怖に駆られ、一歩後退りした。

森が静まり渡る中、突然、カラの前足が大地を踏み鳴らし、セイの心臓は急速に鼓動を再開した。
カラの口からは低く唸る声が漏れ、その響きが空気を震わせた。
セイはその声に呼ばれるように前に進み、気がつけば、彼はカラの足元に立っていた。

「その手を差し出せ」と、カラは人間の言葉で言った。
驚愕するセイ。
しかし、何かに引き寄せられるように、彼の手は無意識にカラの方へ向かっていた。
カラの大きな顎が彼の手に触れると、次の瞬間、彼は不思議な感覚を覚えた。
狼の手に導かれるように、セイは森の奥へと進んで行った。

やがて彼は、カラが守る秘密の空間に辿り着いた。
そこには誰も知らない、不思議な生物たちが集まり、彼らはセイの存在に驚きさえしなかった。
カラもまた、彼を歓迎するように座り、この光景を見守っていた。

だが、心の奥深くに埋もれた疑念がセイを襲ってきた。
この場所は一体何なのか? そして、村にはカラの恐ろしい噂がはびこっている理由は何なのか。
セイはその手が、狼に掴まれていることを次第に恐れるようになった。

ふと彼が周囲を見ると、他の者たちも彼と同じように、カラに手を差し出し、同じ道を辿ってここに集まった人々だった。
彼らの目は虚ろで、その多くは恐怖か、あるいは何かの信者のように見えた。
この森は、彼らを誘うための罠だったのか。

カラは低くおどけたように笑い、セイの手を更に強く掴もうとした。
「出て行くことは許されない」と、言わんばかりに。

セイは深い逃避行に入る。
その瞬間、周囲の空気が一変し、彼は今までの体験を経て成長した。
他の人々を解放しようと決意し、カラに向き合った。
だが、カラの力強い手が、かつての彼を引き戻そうとする。

果たして、セイはこの恐怖の中で自らを解放し、自らの手の印を見つけ出せるのか。
彼は果敢にカラに立ち向かうのだった。
森は彼の内面の反映、恐れを持つ獣との戦い。
しかし、見つけた答えは、この世のいかなる選択とも異なるものだった。

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