山村の小さな町に住む中村貴恵は、家族や友人が何かに取り憑かれたように次々と姿を消していく不思議な現象に直面していた。
彼女はそうした現象が周囲で起こるたびに心に不安を抱き、毎日そこに潜む謎に悩まされていた。
町の人々は、おそらく村の古い伝説に由来するものだと語り伝え合い、その話は次第に恐怖の対象として根付いていった。
貴恵の身近な存在であった妹の綾香も、ある晩、突然姿を消した。
彼女は夜に近くの森へ散歩に出かけて以来、家に戻ることはなかった。
彼女はいつも決まった時刻に帰ってくる性格だったため、貴恵は不安を募らせた。
そして、森の奥に足を踏み入れることを決意する。
彼女は綾香を見つけ出すために、自らの恐怖を打ち消し、暗い森の中へと進んでいった。
森に入ると、周囲は暗闇に包まれ、不気味な静けさが貴恵を包み込んだ。
彼女は足元の藪や枝をかき分けながら進む。
途中、彼女は耳元で誰かの囁き声を聞き、振り返っても誰もいない。
恐怖に駆られながらも、貴恵は何かを得ようと必死であった。
姉としての自分の責任を感じ、消えた綾香との絆を守りたいという思いが、彼女の足を前へと進めさせた。
しばらく進むと、貴恵は古い神社に辿り着いた。
荒れ果てた境内には、朽ちたお札や、枯れた木々が立ち並んでいた。
神社の中央には、祀られているはずの神の像が無残にも倒れており、その前には蝋燭の灯りがわずかに揺れていた。
興味本位でその場に近づこうとすると、突然、風が吹き荒れた。
その瞬間、貴恵は理解した。
この森には許されざる力が宿っていると。
貴恵は神社の中に入ると、ひんやりとした空気が彼女を迎えた。
神社の中では、何かが呼び寄せているような感覚が漂っていた。
彼女は神社の奥へと進み、かつて自らが抱いていた妹への想いを思い出させた。
彼女は妹を思い浮かべながら、何度も彼女の名前を呼び続けた。
「綾香、綾香…どこにいるの?」
その時、神社の奥からかすかな声が聞こえてきた。
「私の所へ来て…」その声はまさに綾香の声であった。
貴恵は無我夢中でその声の方へ向かう。
しかし、声に誘われて進むうちに、周囲の状況が次第に変わっていった。
彼女は心のどこかで不安を感じていた。
見知らぬ誰かに導かれているような感覚に襲われ、彼女は自らの運命に翻弄されてることを感じた。
それが何かの「依り代」にされているのではないかという恐怖が貴恵を襲った。
彼女は自分の気持ちを抑え、足を止めることにした。
「綾香、もういい、帰ろう。」
すると、その瞬間、声は消え、周囲が静寂に包まれた。
寒気が走り、彼女の胸に重いものが乗りかかる。
周囲の暗闇が増していく中で、自分自身の意志を守ることがどれほど大切かを知るようになった。
彼女は自らの決意を固め、再び森からの道をたどることを決意した。
生きていく上で、本当に大切なものは何なのか。
彼女は無事に森を抜け、朝日が昇り始めるころ、町へと戻ることができた。
しかし、心の奥には、綾香を救えなかった後悔と、森の中に残してきたものの影が色濃く残っていた。
自らの記憶の中に続いている影は、再び彼女を引き寄せ、その影の存在が時に思い出として蘇ることを約束するのだった。