「誓いの影」

静かな山中に佇む古びた寺、そこには人々が語り継ぐ恐ろしい伝説があった。
この寺には「ラ」と呼ばれる謎の存在があったという。
ラはかつて、この地に住む僧侶だったと言われ、信者たちに敬われる一方で、時折不気味な現象を引き起こす存在でもあった。

その寺を訪れたのは、大学生の佐藤健一だった。
彼は肝試しの仲間とともに、友人たちの恐怖心をあおろうと、寺に忍び込むことにした。
夜が深まるにつれ、寺の静けさが一層際立っていた。
薄暗い境内では、月明かりが木々の間から漏れ、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。

健一は皆と一緒に境内を歩き回りながら、ふと気になった。
僧侶たちの誓いの儀式を聞いたことがあるが、その内容は深く心に刻まれていた。
「誓いを破る者には、ラが災いをもたらす」という言葉だった。
思わず、その言葉を口にした瞬間、仲間たちの表情が一変した。
「やめろ、そんなこと言うなよ!」と、一人が急に声を荒げた。

しかし、健一は興味を強くそそられ、そのまま続けた。
「でも、ラって本当に存在するのかな?」仲間たちは不安そうに目を合わせたが、興味本位の彼はさらに進んで、寺の内側へと足を踏み入れた。

寺の中は薄暗く、壁には古い仏像がたくさん並んでいた。
健一はその中の一体に目を奪われた。
仏像は、まるで彼を見つめ返しているかのようだった。
「この仏像がラなのかな?」彼は思わず言ってしまう。
すると、背後で「本当に関わるべきじゃない」とかすかな声が聞こえた。
振り向くと、誰もいなかった。

気味が悪くなった健一は、すぐに友人の元に戻った。
だが、彼が戻ると、仲間たちが一様に騒いでいた。
「何か、異変が起きている!」一人の友人が、境内の隅に何か黒い影が現れたと主張していた。
健一は半信半疑だったが、その場の雰囲気に圧倒される。

その瞬間、寺の中から鈴の音が響いた。
まるで何かが動き出すような不吉な音だった。
「やっぱり、ラが来たんだ!」仲間たちは恐れおののき、出口を目指そうとした。
だが、健一は恐怖心と興味の狭間で揺れ動き、残ることに決めた。

寺の奥で、不気味な囁きが聞こえてくる。
「誓いを破った者よ、何を望む?」フッと目の前に現れたのは、僧侶の姿をしたラだった。
彼の目は深淵のように暗く、そこには無数の悲しみと呪念が沈んでいた。
健一は震え上がりながらも、声を振り絞った。
「私は、何も望んでいません。戻りたいだけです!」

ラは急に笑みを浮かべた。
「ならば、誓いを立てるがよい。真実を知りたいというならば、その代償を支払う準備はあるか?」緊張が走る中、健一は目の前の選択を考えた。
だが、本能的に恐怖を感じながらも、興味が勝った。
「はい、誓います。」

その言葉が響いた瞬間、寺内の気温が急に下がり、周囲が闇に覆われていく。
仲間たちは急いで外に逃げ出し、健一もそれに続こうとしたが、足が動かなかった。
「誓いを立てた以上、逃すわけにはいかない」とラの声が響いた。

数分後、寺は静寂に包まれたが、健一だけはその場に取り残されていた。
「私は何をしたのか」と思うと、後悔の念が胸を締め付けた。
彼の中にラの影響が色濃く残り、動くことができなかった。
再び現れたラは、彼に向かって「この地に留まるか、それとも真実を知るか、選ぶがいい」と告げた。

その瞬間、彼はふと気付いた。
この寺はただの廃墟ではなく、数多の誓いを抱えた人々の想いが集まる場所だったということを。
健一は、もう一度誓うことを決意した。
「私はこの寺のことを人々に伝える。真実を語り継ぎ、ラの災いを止める!」その言葉を発した瞬間、闇の力が少しずつ薄れていった。

だが、彼はそれが本当に可能なのか疑問を抱えながら、寺に残ることになった。
健一はラの存在を自分の中に抱えつつ、後悔と希望の間で揺れ動く日々を過ごしていくことになったのだった。

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