「逆さまの夢の迷宮」

地の底に広がる迷宮のような空間。
それは誰も踏み入れたことのない、古びた地下道だった。
町に住む人々の中で、地下道の存在を知っている者はごくわずかであった。
噂では、地下道の奥には「実」体験できる夢のような世界が広がっていると言われ、さらには「露」にまみれた美しい景色が待っているとも伝えられていた。
しかし、その美しさには代償が伴い、誰もその真相を確かめようとはしなかった。

そんなある日、ひとりの若者が好奇心から地下道に足を踏み入れた。
彼の名は天野。
幼い頃から語り継がれる伝説に魅了され、実際にその世界を見てみたいという衝動に駆られたのだった。
薄暗い地下道の中、彼はランタンを手に真っ直ぐ進んでいった。

進むにつれ、周囲は次第に静寂に包まれ、心臓の鼓動だけが響く。
その瞬間、彼は何かが間違っていることに気づいた。
視界の端にちらりと見えた影は、まるで人の形をしているかのようだった。
しかし彼は恐怖を振り払いつつ、さらに進んだ。
すると突然、向こうからかすかな声が聞こえてきた。
「助けて…」その声は彼の心をかき乱すものだった。

興味を持った天野は声の主を探し続けた。
行く先々で、奇妙な空間が広がっているのに気づく。
周囲には美しい花々が咲き乱れ、甘い香りが漂っていた。
まるで夢の中にいるかのようだ。
しかし、心の奥底で不安が広がってくる。
この景色がどこか偽物だと感じていた。
すると、ふと彼の目の前に現れたのは、かつて彼が知っている少女の姿だった。
彼女は微笑みを浮かべながら、彼に手を差し出した。

「待ってたの。ここで一緒に遊ぼうよ。」彼女の声は甘く響き、まるで夢のようだった。
しかし、背筋に冷たいものが走り、彼はその声に拒絶を感じた。
彼が反応を示さないと、少女の表情は徐々に険しくなり、声は次第に尖り始めた。
「あなたが私を忘れてしまったの?」

その瞬間、理解した。
彼女は自分の幼なじみで、かつて彼が地下道の噂に興味を持たずに無関心でいたせいで、地下道に取り込まれた幻影だったのだ。
彼女の美しさは、実のところは「露」に過ぎず、彼自身の心の奥底に潜んでいた罪悪感が具現化したものだった。

恐怖心から逃れたい天野は、彼女の手を振り払って後退した。
しかし、次の瞬間、彼の足元が崩れ、地下道の奥へと引きずられていく。
彼はどんどん深く、見えない闇の中へ落ちていった。
声は次第に大きくなり、彼の耳の中で反響する。
「助けて…忘れないで…。私のことを思い出して、お願い…!」

彼は恐怖に駆られて、地の底の暗闇を彷徨い続けた。
美しい幻想は次第に崩れ、彼の心の恐れが本物の影に変わっていく。
それは彼自身が引き起こした結果だった。
自らの無関心が、圧倒的な痛みを伴う現実に変わり果てる様を、彼はただ見つめるしかなかった。

天野は永遠にここの迷宮に閉じ込められ、時を超えてかつての少女の声を耳にするだろう。
美しかった景色は、次第に彼の思い出として残り、彼の心の奥深くに眠ることになるだろう。
そして、彼の記憶の中で時間が繰り返し、地下道へと向かう新たな足音を待つのであった。

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