夜が深まったある日のこと、静かな町の外れにある古びた神社で、私たちのクラスメートである佐藤と鈴木は、肝試しをすることになった。
彼らは、以前から噂になっていた「闇の影」と呼ばれる現象を検証するため、好奇心に駆られて集まったのだ。
この神社には、昔から「闇に包まれた影」が出るという伝説があった。
影は常に誰かを見つめ、その目を合わせた者は深い後悔と恐怖に苛まれると言われていた。
私たちは、その真実を確かめるため、夜の神社にやってきた。
「本当に出るのかな」と鈴木が呟いた。
彼女の声は少し震えていたが、好奇心が勝り、その場を離れることはできなかった。
佐藤はふんどしを締め直し、先に行こうとする姿勢を見せた。
「大丈夫、ちょっと見てみよう」と言ったが、その目に勇気はなかった。
神社の境内は薄暗く、月明かりだけが我々の足元を照らす。
すると、突然、風が吹き抜けた。
神社の鈴がカランと揺れ、鈴木は驚いて立ち止まった。
「なんだ、これ?」その瞬間、私たちの中に一種の緊張感が走った。
「ちょっと、ここで待っていて」と佐藤が言った。
彼は恐る恐る神社の奥に進んでいった。
私と鈴木は不安を抱えながら彼の後をついていく。
闇に包まれた神社の中に足を踏み入れ、何か異様な気配を感じた。
神社の中程にたどり着いた時、佐藤が急に立ち止まった。
彼の目が驚愕に満ちている。
「あれ…」と言いながら指を指した先には、小さな影が見えた。
まるで人のようだったが、その姿ははっきりとはしなかった。
「本当に誰かいるのか?」私は思わず声を上げた。
影が動き出した! それは、闇の中から徐々に現れ、私たちの目の前に迫ってきた。
その様子を見た瞬間、鈴木は後ずさりして逃げようとしたが、足が震えて動けなかった。
「だめだ、行こう!」私は佐藤に呼びかけたが、彼は固まったままだった。
影は静かに近づいてきたが、その表情は無表情だった。
何かを求めるかのように、こちらをじっと見つめている。
「これが噂に聞く影なのか…」思いがけず心は恐怖で埋め尽くされていく。
その時、影から声が聞こえた。
「私を見ないで…」
その声はかすれていて、なおかつ凄まじい重みを感じた。
「見てしまったら、忘れられなくなる」という警告を耳にした瞬間、佐藤は目を背け、私は手を掴んで鈴木を引っ張った。
だが、足がすくんで動けない。
「私を解放して…」影は続けた。
まるで、何かを訴えているようだった。
「忘れてはいけない、後悔しなければいけない」と。
それは、影自身が持つ業のようなものを感じさせた。
私たちは、この声の強さに押し潰されそうだった。
佐藤は一歩、また一歩と後退り、鈴木もようやく我に返った。
「早く逃げよう!」彼女が大声で叫ぶと、私たちは一斉に神社の外へと駆け出した。
影の叫びが背後から追いかけてきたが、振り返ることはできなかった。
神社を抜け出た時、私たちは息を切らしながら振り返った。
しかし、もう影はどこにもなかった。
闇の中に飲み込まれたような感覚が残る。
ただ、何か私たちの心の奥底に後ろめたい思いだけが残った。
その後、私たちはこの出来事を話すことを避けるようになり、誰にもかそのことを打ち明けなかった。
しかし、時折、鈴木が振り返るとき、彼女の顔には恐怖の色が浮かぶことがあった。
それは、影との邂逅を忘れられない証であり、その影に見つめられたことが、どれほど心に残るものかを教えてくれた。
私たちは今でも、闇の中に潜む影のことを忘れない。
今でも、どこかで誰かが、影に見つめられているかもしれないのだから。