時は秋の深まりを迎えたある夜。
静寂に包まれた田舎町の外れには、もちろんのことながら地元の人々に知られた不気味な道が存在していた。
その道は誰も通らないと噂され、「怨みの道」と呼ばれていた。
人々はその道に近づくことすらためらった。
昔、その道で起きた事件が今も語り継がれていた。
物語の主人公は大学生の健太。
彼は友人達との肝試しの際に、この道の噂を耳にする。
中でも、友人の一人である修司が道の恐怖を大胆に語った。
「この道を夜中に一人で歩いたら、絶対に何かが追いかけてくるぞ!」と笑いながら言う修司に、健太は好奇心を刺激された。
そんな理由で、健太は仲間と共に、その道を往復することを決意する。
その夜、健太は友人たちと共に「怨みの道」に足を踏み入れた。
道の脇には濃い霧がかかり、あたりは不気味な静けさに支配されていた。
彼らは最初は冗談を飛ばしながら進み、徐々にその心が不安に包まれ始めた。
「やっぱり、道は不気味だな…」誰かが囁く。
健太も感じていた。
しかし、彼らは無理やり笑顔を作り、前へと進む。
到着した道のひとつめの曲がり角で、ふと視線の端に何かが動くのを感じる。
辺りには誰もいないはずなのに、不気味に立ち込める霧が、彼の心にさらに重しをのせた。
進むにつれて、道はますます狭くなり、彼らの中には次第に恐怖が蔓延してきた。
「何かがいる…」修司が言った瞬間、彼らの背後から、「れ」という小さな声が響く。
まるで誰かが彼らを呼んでいるかのようだった。
その場の空気が急に重くなる。
健太は思わず振り返ったが、そこには誰もいなかった。
再び進み始めるも、彼らの心の中の緊張感は全く解けなかった。
「帰ろう、もうやめよう」と誰かがつぶやいた。
しかし、健太はどうしても道を進みたい気持ちを抑えることができなかった。
道の奥へ進むほど、周囲の音が消え、健太の鼓動だけが耳に響くようになった。
ふと、視線を感じ、顔を上げると、真っ白な着物を纏った女性が目の前に立っていた。
彼女は微笑みながら何かをつぶやいているが、その言葉は聞き取れなかった。
「れ」—それが彼女の口から漏れるわずかな声だったのか。
驚き、そして恐怖が彼の心を掻き乱す。
彼女の後ろには、無数の亡霊たちがうっすらと現れ、同時に彼に向かって手を伸ばしてきた。
健太は一瞬その場に立ち尽くしたが、彼らの姿が次第に生気を失った様子に心の底からの恐怖を感じた。
「戻らなくてはいけない」と本能が警告する。
後ろから声がして、仲間たちも異変に気づいてきた。
「健太、どうしたんだ!」必死の思いで彼にもどろうとしたとき、彼女の視線が健太を貫通していった。
彼女の目の奥には深い悲しみが宿っている。
彼女は人々を愛していたが、その愛が深過ぎたために。
彼らは道から決して逃れられないことを悟る。
「れ」という声が、再び響いた。
それは彼女の無念であり、彼女の想いが詰まった声だった。
健太は逃げ出すように、仲間と共に道を振り切った。
息を切らしながら駆け抜け、ようやく道を脱出することができた。
振り返ると、道は静かに霧に包まれ、何もなかったかのように感じられた。
それでも健太は感じていた。
この経験は決して忘れられないだろう。
道を逃れられたこと、そして、あの女性の悲しみの存在を。
彼は二度とその道には近づくまいと、心に誓った。