「路の囁き」

夜が深まり、道路は静寂に包まれていた。
時折、冷たい風が吹き抜けるが、その音さえも穏やかで、まるで何もない世界に存在しているかのようだった。
この路は、地元の人々にとって若干の恐れの象徴でもあった。
誰もが口にしないが、夜になるとこの路には異質なものが現れるという噂があった。

ある晩、高校生の田中亮介は友人たちとタムロをして、心の底から楽しんでいた。
彼らは試験の後の解放感に浸り、ふざけあったり、怖い話で盛り上がったりしていた。
しかし、徐々に夜が深まるにつれ、徐々に不安が顔を覗かせてきた。
友人たちが「この道を通って帰ろうよ」と言い出すと、亮介はためらった。
「でも、本当に危ないかもしれないって噂があるぞ。」

しかし友人たちは興奮した様子で彼を促した。
「せっかくだから、試してみようよ。偶然何も起こらないかもしれないじゃないか。」彼らの無邪気な言葉とは裏腹に、亮介は心のどこかで恐れを感じていた。
それでも、仲間外れになりたくない一心で、彼は渋々同意した。

不安を抱えながら、一行はゆっくりとその道を歩き始めた。
あたりは暗く、月明かりがかろうじて道を照らしている。
道沿いには、古びた電柱や枯れた木々が立ち並び、まるで時が止まったかのようだった。
彼らは各々の会話を途切れさせながらも、その場の緊張感を何とか和らげようとした。

突然、亮介の足元に何かがあった。
「ちょっと、何か落ちてる。」亮介はそれに気づくと、思わず立ち止まった。
友人たちも振り返り、彼の後ろに集まった。
それは、見慣れない小さな石だった。
しかし、ただの石ではなく、表面には奇妙な模様が刻まれている。
友人たちはそれを不気味に感じて、誰も近づこうとしなかった。

亮介はその石に手を伸ばし、思わず掴んでしまった。
それと同時に、急に寒風が吹き抜け、彼の心に冷たい感覚が走った。
「何か、あったのか?」亮介は周りを見回したが、何も変わった様子はない。
友人たちは驚き、彼にその石を返せと言ったが、亮介は無言で立って動かなかった。

その時、ふと遠くから声が聞こえてきた。
それはうめき声のような、低く不気味なものであった。
友人たちは彼の腕を引っ張り、一緒に走り出した。
しかし、亮介はその場に立ち尽くし、声の方を見つめたまま動けなかった。
声は次第に近づき、あたかも彼を呼び寄せるように響いていた。

「亮介、早く離れろ!」友人たちの叫び声が聞こえたが、亮介はその声を耳に入れず、ただ声に引き寄せられていく。
いつの間にか、彼は路の真ん中に立たされていた。
周囲の風景がぼんやりし、目の前に存在するものが何か異様な雰囲気を漂わせている。

次の瞬間、亮介の意識が乱れ、目の前に現れたのは、過去にこの道で行方不明になったと言われる少女だった。
彼女はどこか透明感があり、暗い影に包まれていた。
その無表情の顔をこちらに向け、何も言わずただ見るだけだった。
亮介は恐怖におののき、目を背けたが、動けない。
影は彼の周りを取り囲み、不気味な静寂が広がった。

強烈な恐怖が彼の中に広がり、彼はようやく自分の決意に呼びかけた。
「この石を返さないと、彼女の言葉が…私が選ぶ道が失われてしまう!」そう思った亮介は、意を決してその石を地面に落とした。
すると、瞬間彼の周囲の空気が変わり、少女の影が徐々に消えていった。

友人たちは驚愕の表情を浮かべて彼を見た。
「大丈夫か、亮介?」彼の手から滑り落ちた石は、無言で路に佇んでいた。
亮介は重苦しい息を吐き出し、何が起きたのか理解できないままだったが、この道の恐ろしさよりも強い決意を感じていた。
それから何とかその場から逃れることができた彼だったが、知るはずのない恐怖の影がずっと心に残ったのだった。

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