ある日、春の陽射しが心地よい午後のことだった。
小さな村に住む子どもたちが、道端で遊んでいた。
中でも特に元気な男の子、太郎は、友達の健二と一緒に遊ぶのが大好きだった。
いつも彼らは、村から少し離れた道を走り回り、冒険ごっこを楽しんでいた。
その日の遊びの途中、太郎と健二は村の端にある古びた道に差し掛かった。
その道は村人たちから「悪い道」と呼ばれていて、あまり近づかないようにと言い伝えられていた。
なぜ悪い道と呼ばれるのか。
村人たちは口を揃えて、「そこでは計り知れないものが待ち受けている」と言うのだった。
太郎は好奇心から、その悪い道に足を踏み入れることにした。
健二は懸念しつつも、友達についていくことにした。
二人が道を進んでいくと、周囲の空気が何かおかしいことに気づいた。
静まり返った道は、まるで何かを悲しんでいるかのように暗く、空気がひんやりとしていた。
「こんな道、ほんとに怖いね」と健二がつぶやくと、太郎は「まだ何も起こっていないよ」と笑い飛ばした。
しかし、その瞬間、道の先にぼんやりとした影が現れた。
二人は立ちすくみ、恐れおののいた。
影は次第に近づいてきた。
それは、太郎たちと同じくらいの年齢の女の子だった。
彼女は薄く光る服をまとい、目の奥には深い影が潜んでいた。
「ねぇ、あなたたち、遊びに来たの?」と彼女は、おどけたように言った。
二人は恐怖に固まりながらも、そう応えることができなかった。
「私はあかり。ここの道を守っているの」と彼女は続けた。
「みんな、私が見つけたものを計って遊んでいるの。あなたたちもやってみない?」彼女の言葉に魅了され、太郎は恐れを振り払って「仕方ない、やってみよう」と答えることにした。
悪い道での遊びなんて、面白い冒険に変わるかもしれないと思ったからだ。
しかし、健二は言った。
「やめておいたほうがいい。何か悪いことが起こりそうだ。」しかし、太郎の好奇心は彼を引き留められなかった。
あかりは、二人を道の真ん中に導き、手に持っていた小さな箱を開けた。
「これは、計りの箱。試しに一つ、果物を入れてごらん。」言われた通り、太郎は自分が持っていた小さなりんごを箱に入れた。
その瞬間、箱から小さな光が放たれ、りんごは形を変え始めた。
指の間に収まるほどの果実は、どこか生暖かく、妙な香りを発していた。
「これが計り知れないもの。還すことであなたの心を満たすの。」あかりの言葉は次第に冗談ではなく、重みを帯びてきた。
太郎はその怖さを感じつつも、あかりの魅力に引き寄せられた。
彼は次々と果物を箱に入れていった。
しかし、いつの間にか、周囲の風景が変わり始めた。
道がどんどん暗くなり、辺りには木々が生い茂り、普段の村の風景はまるで消え去ってしまったかのようだ。
急に不安に駆られた健二が太郎に叫んだ。
「戻ろう、太郎!この道は悪い道だ!」だが、太郎はあかりに魅了され、彼女の計りの箱に果物を入れることで心が満たされる感覚に溺れていた。
しかし、計量を重ねるごとに、彼の心の奥底に恐怖が広がり、果実たちが次第に変わってくる。
最初は嬉しいはずが、それは不気味な影を纏い、甘さがすべて失われていった。
ついに、果物の代わりに彼の心から取り出された、本当の「悪」が姿を現した。
太郎は恐怖のあまり、その場から逃げ出した。
その後ろからあかりが呼び止める。
「おいで、私と一緒に遊ぼう……」
もちろん、太郎は二度とその道に近づかなかった。
村に戻った彼は、恐怖の悪い道での出来事を語り、遊びに行くことは二度と無かった。
しかし、その計り知れない遊びは、彼の心に何かを残してしまったのだ。
あかりの影が、いつまでも彼の記憶の中に潜んでいるのだった。