「帰らぬ道の秘密」

夜の静まり返った小道を、一人の子供が歩いていた。
名は健太。
彼は小さな村に住む8歳の少年で、好奇心旺盛な性格だった。
村の外れには、古びた神社があり、子供たちの間で「帰らぬ道」と呼ばれる場所があるという噂が広まり、誰も近寄ろうとはしなかった。

その神社には、時折、人々の足音やささやき声が聞こえてくることがあった。
しかし、誰も見当たらない。
村の人たちによれば、その音は過去の霊たちが行き交う音だと言われていた。
健太は、その噂を聞くたびに胸が高鳴った。
「霊にも時があるのだな」と、彼は子供ながらに不思議に思った。

ある日、健太は友達と一緒に遊んでいると、ふとした拍子に友人の一人が「帰らぬ道に行ってみよう」と提案した。
友達は怖がっていたが、健太の好奇心が勝り、彼は一人で神社に向かうことにした。

神社にたどり着いた健太は、周囲を見回し、薄暗い境内に薄い霧が立ち込めているのを見た。
静まり返った空気の中、彼は思わず口を開いた。
「誰か、いるの?」その瞬間、背後からかすかに「健太」と呼ぶ声が聞こえた。
健太は振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。
彼女は白いドレスを着ており、顔立ちはどこか美しく、しかしどこか無表情だった。

「私、ルリ。一緒に遊びたい。」彼女はそう言って微笑んだが、その笑顔には何か不気味なものがあった。
健太は彼女に引き寄せられるように、近くの林へと足を踏み入れた。

林の中には、時間が止まったかのような感覚が広がっていた。
周囲には、朽ちた木々や、古い石碑が立ち並び、まるで昔の記憶が詰まった場所のようだった。
健太はその異様な雰囲気に恐れを抱きつつも、ルリと一緒に遊び始めた。

しばらくすると、健太はふと我に返った。
「帰らなきゃ…」と言いかけたその時、ルリは突然真剣な表情になり、「帰らないで。ここに留まって、私と一緒に遊ぼう」と言った。
しかし、その目は悲しみを湛えており、健太はその瞬間、何か嫌な予感を感じた。
彼が帰らなければならない理由が、頭の中で渦巻いた。

突然、霧が濃くなり、周囲は真っ白になった。
健太は振り返ると、ルリの姿が見えなくなっていた。
混乱する健太の耳元で、小さな囁き声が響いてきた。
「あなたも、ここに帰るの?」

その瞬間、健太は一瞬で記憶が甦った。
村の大人たちから聞いた「帰らぬ道」の真実。
そこを訪れた者は二度と帰れないという、霊たちの輪に捕らえられてしまうという話だった。
彼は息を呑み、全力で逃げ出した。
闇の中を逃げ続け、神社を目指すが、霧が彼の行く手を阻む。

再び不気味な声が聞こえた。
「逃げられない…私のところに帰っておいで…」健太は泣きながら走り続け、ようやく神社の境内にたどり着いた。
しかし、そこには先ほどの女の子はもういなかった。
「ルリ、どこ?帰ろう!」と叫んだが、返事はなかった。
静寂とともに、村の明かりが遠くに見えるだけだった。

その後、健太は無事に村に戻ったが、心の中には深い恐怖と切なさが残った。
彼は「帰らぬ道」にはもう近づくまいと誓った。
そして、村の人々が語るように、あの場所には、時間を失った霊たちがさまよっているのだと、改めて恐れを感じた。
ルリの言葉は健太の心に重く残り、彼が成長しても、その思い出は決して忘れられることはなかった。

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