「音の中の影」

浪はその日、友人たちと共に廃墟となった洞窟に足を踏み入れた。
彼らは肝試しをすることに決めていたのだが、そんな軽い気持ちで洞窟に入るのは危険だということを、誰も知らなかった。

洞窟の奥深くへと進むにつれ、周囲は次第に暗くなる。
光の届かないその場所は、空気が重く、緊張感が漂っていた。
浪は仲間たちと一緒に笑いながら進んでいたが、心のどこかに不安が巣食っているのを感じていた。

「なんだか静かすぎないか?」と、一人が呟いた。
その言葉が響くと、突然、洞窟の奥から「キーン」という異様な音が聞こえた。
耳障りなその音は、何かが洞窟にいることを示唆しているかのようだった。

「気のせいだろ」と浪は言ったが、心の奥に潜む恐怖を隠すことはできなかった。
仲間たちはその音に怯え始め、声をひそめた。
しばらく進むと、洞窟の中が一瞬だけ明るくなったかと思うと、影がひとつ、スっと通り過ぎた。
浪は目をこらして、その影を見つめた。

「今の、見た?」浪は声を震わせた。
全員が何かを感じ取っている。
返事をする者は誰もいなかった。
恐怖が仲間たちの心を支配していた。

「おい、もう帰ろうぜ」と言ったその瞬間、再びあの音が鳴り響く。
「ウィーン、ウィーン」と、空気を裂くような音の合間に、遠くから囁き声が聞こえてきた。
「助けて、助けて……」その声は、かすれていて、まるで過去の誰かが今もこの洞窟内で苦しんでいるようだった。

友人たちはパニックになり、急いで出口に向かおうとした。
しかし、出口の方向に複数の影が現れ、その影が彼らの動きを阻むかのように立ちはだかった。
影は人の形をしているが、その顔は見えず、ただ濁った暗闇の中に存在しているようだった。

「何かいる……!」と叫ぶ友人が、恐怖から目を背けて後ずさりすると、足元が崩れ、彼はそのまま洞窟の奥へと転がり落ちていった。
友人たちは絶叫し、彼の名前を呼んだが、返事はなかった。

浪は恐怖に駆られ、仲間を探しに行こうとして立ち止まった。
ふと、自身の耳元で再び囁く声が聞こえた。
「憎い、憎い……」それは、無数の霊の声のようだった。
この洞窟は、何か怨念が残っている場所なのではないかと感じた。

彼は懸命に仲間を呼び続けたが、戻る気力が徐々に失われていく。
代わりに、洞窟の壁にひび割れた細かい影が映る。
彼の周りを取り囲むように、霊たちが現れ始め、彼に向かって手を伸ばしてくる。
まるで彼を捕まえようとしているかのようだった。

「助けてくれ!」と叫ぶ浪。
だが、彼の声は響かず、影たちの「憎い」という声がその場を包み込む。
「お前も助けてくれないのか?」霊たちの恨みが一層強まり、彼は耐えきれずに後退った。

恐怖と憎悪で満たされた洞窟内で、影が迫ってくる。
彼は出口を求めて必死にもがいたが、それらの影が堵塞し、彼を逃げさせない。
仲間の叫び声が響く中、浪はとうとう、逃げ場を失った。
彼は洞窟の中で何かに呪われ、消えてしまう運命を背負ったのだった。

その後、洞窟には浪の姿は見えなくなった。
彼の友人たちも、それを見た者も、決して戻って来ることはなかった。
そして、今もなお、「キーン」という音と共に情けなく響く「助けて」の声が、静かな洞窟の中に残されているのだった。

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