逆転の囁き

ある深夜、田中翔太は友人たちと心霊スポットとして有名な山に向かっていた。
彼らが気になっていたのは、「逆転の洞窟」と呼ばれる場所だった。
この洞窟には、通常の音が反響することがない代わりに、全く逆の音が聞こえてくるという都市伝説が流れていた。
廃れた道を抜け、待望の洞窟の入り口に立つと、恐怖と期待の感情が翔太を包んだ。

「本当にここが逆転の洞窟なのか?」と友人の健太が不安そうに言った。
「大丈夫だよ、みんなで行けば怖くないって!」翔太は明るく振る舞ったが、自身の心臓は速く鼓動していた。
彼らは懐中電灯を持ち、洞窟へと踏み入る。

洞窟の内部は湿り気があり、薄暗く、冷たい空気が流れる。
その瞬間、翔太は耳を澄ませた。
何も音が聞こえないかと思いきや、微かに「逆」に聞こえる音がした。
それは、彼らの足音が消えてしまい、逆さまの囁き声が響き渡っていた。

「出て行け」とか「来るな」といった声が、彼らの耳に直接届くのではなく、元の意味とは正反対の形で響いていた。
翔太は恐怖を感じ始め、「これはおかしい」と心の中で思ったが、好奇心に駆られ、さらに奥へ進むことにした。

その時、あたりが急に静かになり、洞窟の壁が振動し始める。
彼らの周りを一瞬の間、冷たい気流が駆け抜け、翔太はその瞬間、何かが洞窟の奥から出てくる気配を感じた。
声はより大きくなり、支配的になっていく。
翔太たちは「逃げろ、来るな」という囁きに心を重くして、さらに乱れた行動を取り始めた。

「もう帰ろうよ!」健太が叫んだが、翔太はその声を逆に受け取った。
「ここを出て行っちゃだめだ!来い、こっちへ!」その瞬間、翔太は恐怖に駆られて、洞窟の奥へと進んでしまった。
他の友人たちも無意識にその後を追った。

彼らが深く進むにつれ、空間が歪み、様々な物が形を変えて見えるようになる。
逆転の虫のような生物たちが動き回っていて、一瞬のうちに心を捉えられてしまう。
翔太は「これは夢だ」と自分に言い聞かせたが、その現実感が彼を逃さなかった。

「翔太、やめろ!」友人たちの声が聞こえたが、それもまた逆の意味を持っているように翔太の心に響いた。
「行け、進め!」彼はその声に従い、進む。

ついに洞窟の奥へ辿り着いた時、視界が開けた。
そこには、鮮やかな光景が広がっていた。
しかし、それは彼の目には逆さまに映っていた。
地面は空になり、頭上には星が群れをなして輝いている。
翔太はその中で立ちすくむ。

実体のない存在が姿を現し、翔太に向かって笑いかける。
「ようこそ、逆転の世界へ。」彼の言葉は、翔太の思考をさらに混乱させた。
「ここでは全てが正反対。君が言いたいことも、したいことも、全て逆になるのだ。」

翔太は驚愕した。
逃げ出したいという気持ちが逆の「留まれ」という強い衝動に変わった。
この場所が永遠に続くのではないかという不安感が彼の心を包み、出口はどこにも見当たらなかった。

友人たちも、その状況を理解した瞬間、絶望的な表情を浮かべ、「出よう」と叫ぶが、その声もまた逆の意味で響く。
翔太はこの場から抜け出せなくなることを悟り、虚ろな眼差しで周囲を見回す。
彼は心の中で叫んだ。

「逆転の瞬間が、俺たちを飲み込んでいく!」彼の思考が混乱し、世界が回るように感じた。
もはや彼の選択は無意味になり、ただこの場に留まる運命へと彼らは引きずり込まれていく。

静寂が戻り、彼らの声は消えた。
そして、洞窟の奥には、次の訪問者を待ち受ける逆転の空間が静かに広がっていた。

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