「呪われた裏手の呼び声」

ある夏の夜、静まりかえった町の一角にある古びた一軒家。
そこには、澄子という名の若い女性が住んでいた。
澄子はその家に引っ越してきたばかりで、周囲のことは何も知らなかった。
しかし、彼女はある晩、近所の人たちから聞いた噂に興味を持つことになる。

「この家の裏には、決して立ち入ってはいけない場所がある」という噂だった。
誰もが口にするこの禁忌の地は、何故か町の裏側に隠れたように存在していた。
それは、かつて黒い呪いがかけられた場所であり、そこに近づくことは命取りだというのだ。
澄子は好奇心から、いつしかその場所を訪れることを決意していた。

月明かりが薄らいでいく中、澄子は懐中電灯を手に取り、家の裏手へと進んだ。
その場所に近づくにつれ、周囲の静寂が異様に重たくなっていく。
澄子はかすかな陰影に圧倒されるような感覚を抱きながらも、恐れを振り切ってその場所にたどり着いた。

背の高い木々が囲む中、まるで時が止まったかのような空間。
澄子は思わず息を飲み、視線を巡らせると、目の前に一つの石碑があることに気づいた。
それは、何かの呪いを示すかのように古びており、そこには不気味な文字が刻まれていた。
「何かを求める者は、闇に飲まれる」。
その文字を見た瞬間、澄子は背筋に寒気が走った。

徐々に周囲が暗くなり、冷たい風が彼女の肌を撫でる。
突然、聞こえてくる不気味な声。
「誰か、私を呼んでいるのか?」それはまるで彼女の背後から響いているようだった。
しかし、振り返っても誰もいない。
澄子の心臓は早鐘のように高鳴り、逃げ出したい衝動を抑え込む。

また声が響いた。
「私を忘れないで…」それはつい先日、澄子の同級生だった美咲の声だ。
美咲は数年前に事故で命を落としたと言われており、その死は町を悲しませた。
澄子は恐怖と混乱の中で、声に導かれるように再び石碑の方を見た。
そこには、薄暗い影が寄り添うように立っているのを見た。

思わず目を細めると、それは美咲の姿に見えた。
しかし、その表情は虚空を見つめているかのようで、どこか別の世界にいるかのようだった。
「澄子…私を呼んだのか?」その言葉は空気を包み込み、澄子の心の奥底に響いてきた。

不安に駆られた澄子は、何とか声を発した。
「美咲、あなたは…どうしてここに?」泉のような悲しみと恐怖が彼女を襲った。
その瞬間、美咲は淡い笑みを浮かべ、手を伸ばした。
「私と一緒に来て…私を解放して…」

澄子はその言葉に引き寄せられるように近づいていくが、同時に何かが彼女の心の中で警鐘を鳴らす。
「背後に気をつけろ!」という声。
しかし、その恐れを無視し、彼女は美咲の手に触れようとしたその瞬間、彼女は冷たい手が自分の腕を絞めつけるのを感じた。

「一緒に…来るの!」美咲の声が変わり、澄子の意識は呑み込まれていく。
目の前が真っ暗になり、何も見えなくなった。
澄子はただ、その恐怖の中で懸命に逃げようとしたが、運命は狂おしいほどに彼女をその場へ引き寄せる。

次の日、町の人々は澄子を探し始めたが、彼女は姿を消してしまった。
誰もが彼女の名前を呼び、町は再びその暗い噂に包まれていく。
そして、月明かりの下、石碑の横に立つ一つの影。
それは澄子の姿だった。
彼女もまた、呪いに飲み込まれた者として、永遠に闇の中を彷徨い続けることになるのだった。

タイトルとURLをコピーしました