「闇に囚われた願い」

夜の街、静寂の中にあるトンネル。
その奥からは、暗い影がひそみ、何か不気味な気配を醸し出していた。
私たちの街には、誰もが噂をする「謎の現象」があった。
それは、トンネルの中で失踪した人々のことだ。
「行けば戻れなくなる」と言い伝えられ、多くの人がその真相を恐れ、近寄らなかった。

数年前、トンネルに近い町で謎の失踪事件が続いた。
たった一人、17歳の少年、健太が、学校帰りに姿を消した。
その日も周囲には何の兆候もなかった。
友人たちは最初、彼が一時的に家出しただろうと軽く考えていたが、どうしても健太が戻ることはなかった。
町の人々は不安にかられ、このトンネルが原因だと口にしたものの、真実を知る者は誰もいなかった。

その謎を解き明かすため、私は友人の由美とともに、そのトンネルに足を踏み入れることにした。
この日のために、私たちは多くの情報を集めていた。
昼間の明るい時間帯にトンネルに向かい、しっかりとした準備を整えた。

トンネルの入り口に近づくと、ひんやりとした冷気が私たちを包んだ。
周囲は静まり返り、ただ私たちの足音だけが響き渡る。
奥へ進むにつれ、何かが迫っているような感覚が強くなっていった。

「ねぇ、健太のこと、最後に見たのはいつか知ってる?」由美が不安そうに問いかけた。
私は首を振った。
「みんなが言っていたのは、トンネルの中だったって。どうして、こんなところに…」言葉が続かなかった。
私たちの一歩一歩が、まるで時間を止めているかのように感じられ、恐怖が胸を締め付けた。

トンネルの深い闇の中に進んでいくと、あたりから微かな囁き声が聞こえてきた。
由美は立ち止まり、私の腕を掴んだ。
「あれ、聞こえる?」と震える声で言った。
さっきまで静かだった空気が重くなり、まるで誰かが私たちを見守っているかのようだった。

「やっぱり、もう帰ろうか。」私は急に不安になって、後ろを振り返ってしまった。
由美に声をかけると、彼女はじっと奥の暗闇を見つめていた。
「健太かもしれない…」彼女の目には驚きと恐怖が交錯していた。

その瞬間、何かがトンネルの奥から現れた。
無数の影が私たちに向かって迫ってきた。
「由美、逃げよう!」私は彼女の手を引いて、急いでトンネルを後にした。
振り返ると、影は次第に薄れていったが、その視線はまだ私たちを追っているようだった。

出口に近づくと、私たちは息を切らして立ちつくした。
周囲は静けさに戻り、何もなかったかのように見えた。
しかし、心の中には恐怖と不安が残っていた。

「本当に、健太があの中にいたのかも…」由美がつぶやいた。
私もその言葉を考えていた。
失踪した人々が実際に存在していたのだろうか?一体、彼らはどこに行ったのか。

私たちは、残された謎と共にトンネルを後にしたが、心の奥底で何かが引っかかっていた。
都市の噂では、「希望を持って入った人間が、闇の中に閉じ込められる」と言われていた。
私たちもまた、その「希望」に取り憑かれてしまったのだろうか。

町に戻ると、私たちの日常は以前のように続いていたが、心の中には「謎」がいつまでも消えないものとして残っていた。
どこかで、健太たちがまだこの街にいるのかもしれない、そんな思いが消えなかった。
知らない間に、私たちもその一員になってしまったのかもしれないのだ。

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