「秘に飲まれた村」

造の小さな村には、古くから伝わる噂があった。
村の外れにある神社の奥に、ひっそりと隠れた祠が存在し、その祠には「秘」という名の妖怪が住んでいるというのだ。
この妖怪は、人の念を吸い取る力を持ち、欲望や執着心を感じ取ることができる。
人々はその存在を恐れ、決して祠には近寄らないようにしていた。

ある日、大学院生の佐藤浩一は、村の伝説に興味を持ち、研究を進めるために村を訪れることにした。
浩一は、特にこの「秘」という妖怪について深く知りたいと思っていた。
村の古老から話を聞き、彼は神社の奥の祠に足を運ぶことを決意した。

夜、浩一は村の灯りを背にして、暗い森の中を進んでいった。
月明かりがわずかに差し込む中、彼はついに祠にたどり着いた。
木でできたその祠は、苦労して築かれた雰囲気を持っていたが、同時に不気味さも感じさせた。
浩一の心臓は高鳴り、足がすくむような恐怖が彼を襲った。

彼は念入りに中を調べることにした。
祠の中には古びた道具が置かれており、壁には神秘的な模様が描かれていた。
その時、彼の視界の隅に、薄暗い影がちらりと動いた。
浩一は思わず振り返ったが、誰もいなかった。
心のどこかで興味と恐怖が交錯し、さらに深く調査を続けた。

突然、空気が一変した。
それまでの静寂が、何かしらの存在感を帯びてきた。
その瞬間、浩一は「秘」の気配を感じた。
視線を感じ、振り向くと、そこには人の形をした影が立っていた。
目はまるで心の奥を覗き込むように輝き、浩一は動けなくなった。

「お前の念、欲望を見せてみろ。」影は低い声で囁いた。
その声はどこか心地よい響きを持ち、浩一の心に潜り込んできた。
浩一は、自身が研究に没頭するあまり、周囲の人間関係を疎かにしていたことを思い出した。
欲望と孤独が交錯して、彼の心の中で渦巻いていた。

「必要なのは理解だ。私が手伝ってやる。」影は言った。
浩一はその言葉に動揺し、興味をそそられた。
彼は影の言葉に従い、自身の考えや思念をさらけ出すことにした。
しかし、影はその念を吸い取るように静かに笑った。
彼の心の一部が、影の中に取り込まれていくのを感じた。

日が経つうちに、浩一は次第に変わっていった。
彼の研究は順調に進むも、その過程で大切な友人たちとの交流が薄れていった。
人々は彼の変貌に気づき、彼を避けるようになった。
しかし、浩一はそれに気づかず、ただ「秘」に与えた念が自分の力を強めていると感じていた。

年月が経つにつれ、浩一は村の中で姿を見せなくなり、彼の存在はやがて村人たちの記憶から消えていった。
村は、浩一が消えた場所として語り継がれるようになった。
人々はそれを「念の界」と呼び、近づくことを禁じた。

やがて、村は静まり返り、浩一が求めた知識は誰にも語られなくなった。
彼の影響を受けた人々は、それを恐れ、影の存在もまた一つの伝説となった。
村は孤立し、浩一もまた「秘」に飲み込まれた、そのまま消えてしまったのだ。

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